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1998年05月29日(金) Emperor AKIHITOの謝罪

こういう微妙な問題を、こんなお気楽なページで不勉強なままに言及してしまうのもどうかとは思うが、印象的なことを自分なりに書くことにする。

私たちの英国到着に遅れること一週間余り、今は天皇皇后両陛下がイギリスをご訪問されている。私たちは新聞を取っていないし、テレビもよく聞き取れないので、概要しか分からないのだが、ご訪英を控えてブレア首相が「温かな気持ちで迎えて欲しい」と英国民にアピールするなど、あまり歓迎ムードではないらしい。

つまり第二次大戦中の日本軍の元捕虜を中心とした退役軍人とその家族が日本に対して謝罪と補償を求めて運動を起こしているのである。連日テレビや新聞は、エンペラー・アキヒトがくる、彼は謝るだろうか。ドイツは謝ったぞ。女王陛下の晩餐会に出た、悲しみは表明したが謝ってない、あれじゃ足りない。ブレア首相の午餐会に出る、今度こそ彼は謝るだろうか。等々である。

テレビに映し出されるロンドンの街頭は日章旗とユニオン・ジャックで飾られているが、街を行く両陛下の車の脇には、その前を通りすぎるごとにこれ見よがしにそっぽを向くパフォーマンスを行う、「PRISONER」(prisoner of war POW と略す)と入ったたすきをかけた人々が目立つ。英首相官邸で出迎えを受ける両陛下を遠巻きにして元捕虜たちが老体に鞭打ってデモンストレーションを行っている。

皇室のメンバーはケンブリッジやオックスフォードに留学しているし、ダイアナ人気に沸くなど、日本とイギリスは仲がいい、という印象が強い。しかし英国では、特に第二次大戦中の元捕虜とその家族にとって、日本憎しの感情が未だ根強いようだ。一方、他の一般的な国民はいたってクールである。別にわれわれの周囲の人間も「日本のエンペラーが来てるね」などと話し掛けてくるわけでもない。盛り上がっているのは捕虜たちなのである。謝罪と補償、あなたはどちらを求めていますか、という問いに対して「両方です」と答えていた捕虜の孫という人がいたが、補償が目当てなのかな、という意地の悪い見方もないわけではない。

昨日は両陛下は日本庭園にお出ましだったようで、テレビには邦人が多数、旗をもって集まっていた。インタビューに対する彼らの返答はいずれもあいまいで、説得力がない。曰く「日本はダイアナさんが来たときにあんなに歓迎したのに…」「イギリスに謝ったら、中国やフィリピンなどアジアの国ではもっと大変なことになる」等々である。
なにを情けない、と思うなかれ。なんとも混乱するのである。答えようがないのである。普段は仲良くしていて、こういう時になると、突然日本の戦争責任をめぐって大騒ぎになるのか。
にこやかに控えめに振る舞う、戦争中少年だった陛下は、この運動を前に「謝れるものなら謝ってしまいたいよ」とこぼしていらっしゃるかもしれない。ここに日本国の代表として訪英しながら、象徴として実権をもたない中途半端な立場の辛さが現れる。

昭和天皇は初のヨーロッパ歴訪の時にパレードに生卵を投げつけられた。今回はさすがにそんなことはないが、日本が鬼畜米英といっていた時代は確かに存在したのだ、ということをしみじみ知らされる。しかしその一方で、なぜ日本が戦争をするに至ったか、日本の捕虜は虐待されなかったのか、国中が焼け出された日本はどこにも補償と謝罪を求めてはいけないのか、などと考える。


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