終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2011年12月01日(木)

「俺は傀儡にはならぬぞ、幸盛」

 尼子勝久という青年――少年は、静かにそう言った。はしっこそうな小柄な体格と子供らしい明るい色の頬でいながら、その双眸にはひとつぴたりと据えられて動かぬものがある。縫い付けられた星のようだと幸盛は思う。そうしてそんな光をどこかで見たことがあると。

「俺は傀儡にはならぬ。負けてとられるのは俺の首じゃ。それなら俺は、俺の意志と思惑をもって戦う。それで戦い抜いて戦い抜いて死ぬならよい。だがひとの思惑にのって担がれた挙句が首を失くすじゃ割にあわぬもの」

 さかしらというにはあまりに骨のとおった言葉であった。生まれてほとんどすぐに親兄弟を戮されて、赤ん坊のころから寺に育ったとは思えぬ言葉であった。歴戦の勇士のうちにも、ただ己が言動の対価のみを受け取るべしとの意志を臆することなく自ら吐けるものは稀であろう。
 誰に似ておるのだろう――と、山中幸盛は、息ひとつするうちに思った。すでに伝説中のひととなりつつある謀聖・経久公、毛利元就に拮抗して十二国の太守にまで上り詰めた晴久公、十年にわたる攻城戦を敗れたりとはいえ粘り強く戦い抜いた義久公――その誰かのようでいて、その誰ともしかとは思えなかった。ただこれは尼子の『血』であろうと、それがこのように発現することは確かにあろうと思った。

「なんの」

 幸盛は、にかり、と、笑った。そうして笑み崩すと、厳粛な、いかにも武人という顔が急にひとなつっこくなるのだった。

「勝久さまは、傀儡になんどおさまらぬお方じゃ」
「そうかよ」

 勝久も笑った。笑って、ぐるりと面をめぐらせた。狭い寺の隅だった。生まれ育ってその先に行ったことのない少年が笑った。

「しょせんは命ひとつ、首ひとつ――坊主を百年やるより楽しそうじゃ」


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