- 2009年05月15日(金) 【死人】 よくできた守役だとか、副官だとか、軍師だとか。 まあみんな、冗談だよなってことを、しょっちゅう言うわけだ。みんなってのはなかなか豪華なメンツで、親父が最初で今は軍神さんとか、長曽我部のアホとか、武田のオッサンとかな。時々、本当にそうなのかと自問自答してみるが、いやそうじゃねえ、俺は狂犬一匹飼ってるだけだ。 礼儀正しい教養人、笛も吹く剣は達人と芸の細かい片倉小十郎を相手に、狂犬ってのはねえと思うか? ところがあいつは狂犬だ。 だって見ろよ、今もそうだがあいつの目の底はおそろしく暗い。戦場で、命捨てた覚悟で暴れまわるやつらを死兵とか死人とかっていうが、小十郎のやつときたら飯食っても、畑で野菜育てても、ぶっちゃけ俺にヤられてたって死兵だ。死人だ。 朝昼晩、ぶれもせず飽きもせず命を捨てたも同然ってヤツを、部下に飼ってみな。手を焼くぜ。下手すりゃ食われる。だから狂犬だ。 親父も、右目を潰して落ち込んでる八つのガキに、よくそんなもん押し付けたと思うぜ。とにかく、あいつが守役でございってて出てきたときは冗談だと思ったな。いや、冗談であってくれと願ったぜ。冗談じゃなかったわけだが。しかしなあ、俺は一目であいつが狂犬だってわかったってのに、あいつは自分が狂犬だってことを知らねえときてる。どうすりゃいいんだ。 とりあえず挨拶みてえに「御ために死にますいつでも死にます」ってのはやめろってとこから始まって、「俺の右目になれ」つってだまくらかして、十年かけて飼いならした。 あいつは今でも死人だ。それはまあ、本当に死ぬまで変わらねえだろう。死人に生まれついちまってんだ。だがともかく、あいつは「俺のために」しか死なねえ。もう一歩進んで、俺が天下狙うって言い出してからは、「最後まで俺を守る」ために、今日は死なねえ、明日も死なねえ。そんでもって明日のために備え明後日のために備える。今日を生き明日を生きる。 どうだ、俺の涙ぐましい努力がわかるだろう。あいつがよくできた顔して俺の横に座ってのは、ガキの頃からの俺の守役教育のたまものなんだぜ。普通は逆だと思うんだがよ、まあしょうがねえ。俺もあいつは嫌いじゃねえ。 こないだ、鬼島津が九州から、いいか、九州だぜ? ちなみに俺ん家は今のとこ奥州だ。そのうち天下とるけど、まあそりゃいいやな。鬼島津が九州から一騎打ちに来やがったんだ。小十郎とやりてえってな。 おいおい冗談じゃねえぜ。天下取りで忙しいんだそんなことやってる場合じゃねえ、って言いかけて、俺はびびったね。小十郎が昔の顔になってた。 命の取り合いってのを、本当に何も持たねえでただやりあうだけの勝負ってのを目の前にぶら下げられて、血が騒いだんだろう。血が騒いだなんてもんじゃねえな。軍師だのなんだの、俺が十年かけてつけてやったお面がはがれて、座敷の上で狂犬が牙剥いてたんだ。ああもう、嫌になっちまう。 ここで止めたら、自分の尻尾が剥げるまで噛むだろうと一目でわかった。わかっちまったんだ。だから行かせた。行かせておいて、俺はもう、生きた心地がしなかった。あいつは死ぬかもしれねえ。あの馬鹿、あの狂犬。 俺の右目じゃねえか。 それでも俺は止めなかった。できた主だって思うだろ、そうだろ? あいつは俺の右目じゃねえ。あいつはあいつだ。それを俺くらいよくわかってるヤツもいねえだろう。この勝負を取り上げたら、あいつは壊れるとわかってた。あいつは行って、そんで生きて戻ってきた。妙に血色が良かったのは気のせいじゃねえ。あいつは死を食って生きてんだ。 あいつにとっては俺は重荷だ。明日ってもんさえ重荷だ。あいつには刀の重さ以外はみんな重荷だ。なんてこった、そんなこた知ってたが、まさかこれほどだとは思わなかった。俺の十年を返せ、返しやがれ。 鬱憤晴らし代わりに抱いてやったのがそもそもの始まりだ。別にごつごつした手足が楽しいわけじゃねえ。割れた腹筋だとか盛り上がった大胸筋だとかがいいわけじゃねえ。まあ、引き続いてやってるからには悪くもねえわけだが、とにかく女抱くような話じゃねえんだよ。 そうだ、耳元で睦言言ってやったら、あいつ何て言ったと思う。 「政宗様、あなたはこの小十郎に、幾つ、死ねない理由を作るおつもりか」 すげえ不機嫌そうで、俺は痺れたね。そうだ、死なせてなんかやらねえ。あいつは俺の右目だ。十年かけて手なずけた狂犬だ。俺のためにだけ吠えて食らいつけばいい。あいつが俺の足元で倒れて死んだら、 そのときは俺が死人だ。 「戦国BASARA」政宗×小十郎 こういうのもアリだな。 竜にタガをはめている堅物、っていうより、 飼い犬に手を焼いてる竜ってほうが、関係性として好みだ。 -
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