終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2007年11月06日(火)

くらくさみしい道をあなたは行く。

 火星の夜は寒い。寒くて暗い。衛星フォボスは頭上をめぐるが、ただ冷たい岩塊のように鈍く光っているばかりで、どれほどの光をもたらさない。わたしは毛布をかきよせ、コロンビア・ヒルズから平原を見渡した。そのどこにも明かりのない、ただ暗く、距離も時間もよりどころもない風景はわたしの心をひどく悲しませた。
 そのときわたしの懐の奥深くに熱を求めてもぐりこんでいた水玉模様のフェレットが頭を出して言った。どうかあなた、旅のおかた、天幕の中にある灯りをちょっと掲げてもらえませんか。なぜかっていうとね、夜にそんな明るい光を見たら、きっとうれしいだろうと思うんですがね。ええ、遠くで凍えていたら。きっとうれしいと思うんですよ。誰かがそこにいると思えるのは。
 そこでわたしは天幕に戻り、交流水素カンテラの真鍮の取っ手を掴むと、また外に出た。光は私の足元に輪をつくり、そしてその明りは遠くまで照らした。ほんの小さな明かりだったが、それは遠い幸福な記憶のように、この寒々とした夜の一隅を照らした。
 フェレットはごそごそと私の懐にもぐりこみながら、ああ、と呟いた。もしあたしらが遠くにいたら、ほんとに遠くにいたら、道に迷って暗くてさみしい道をとぼとぼと歩いてたなら、いまどんなにうれしいでしょうかね。いまどんな思いでこの明かりを見上げているでしょうかね。
 それで私は戻りもならず、丘の上に明かりを掲げて朝を待った。


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