- 2007年11月01日(木) 明日の太陽が昇る前に、あなたの夢を。 清潔な明るい岩屋は天井の丸い開口部から差し込む真昼の光にやわらかく照らされていた。緋色の格子縞の雌ライオンはゆったりとした歩みでわたしを先導し、乾いた、心地いい砂の上に座らせた。わたしは遠い地球の静かな水をふいに恋しく思ったが、ここには一滴の水もないのは明らかだった。火星の表面から水という水が失われてからもう何十もの世紀が過ぎている。 さあどうぞ、しばらくお休みください、と雌ライオンは言って、岩屋の奥に姿を消した。彼女の愛児を連れに行ったのだろう。わたしは疲れた足を伸ばし、この岩屋に水のいろどりがあればどんなにいいだろうと考えた。揺らぐ水面は太陽の光を反射するだろうし、そのやわらかな反射は天井の赤い砂岩を静かな輝きで飾るだろう。なによりひんやりとした気配をこの手にすくって口に含めば、どれほど心地いいだろう。 ふと気づくと、わたしは地球の岸辺に立っていた。なるほど私は憧れによって遠い星々を行き来するものなのだ。雌ライオンにはすまないことをしたと思った。 -
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