- 2007年10月21日(日) 達吉が忙しく立ち働いているのを、祐介は横たわったまま見ていた。西園寺が身請けの話を持ち出したときも、拒みはしなかった。だが祐介は間もなく寝付き、冬が来ても容態は好転する様子を見せなかった。西園寺の屋敷の離れに移るにあたって、大切にしていた三味線の撥はどこかへいってしまったが、それを気にする様子も見せなかった。 「…達吉」 「へえ、お加減はいかがです」 「悪かァないよ。あァ、もうすぐ旦那がおいでだ、おめェ、ちょっくら表を見て来てくれねェか」 「へェ」 はしこい少年がさっと部屋を出て行くのを見送って、祐介はほっと息をつき、目を閉じた。もう長くないのはわかっていた。新年まではもつまいと考えて、ふとひとつの面影が脳裏をよぎった。 「…梓坊、すまねェなァ」 寂しい面差しの少女の最後に振り返った眼差しを覚えている。ああもう死ぬ気だというのは理屈などなしにわかったが、止めることもできなかった。だからこうなったのは罰だろうと祐介は静かに考える。そのうちに足音が近づいてきた。 祐介は新しい年を待たずに逝った。その後、西園寺は独り身を貫き、甥のひとりを養子にもらって跡継ぎに据えた。 -
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