終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2006年10月13日(金)

第二の疑問文(物語の外へ):

 処刑人が重たい斧を振り上げたとき、真昼の太陽がその刃先に滑ってぎらりと無慈悲に輝いた。囚人は地に伏せ手をついて首をのべ、その目には汚れた布きれが巻き付いて視界を閉ざしていたから、たぶんかれは、来る死がどれほど迅速であるかは知らないままだっただろう。
 さあ今度こそ、とマルチェロは思った。今度こそ、誰かが駆け込んできて中止を命じるだろうと。枢機卿の真実の殺害者をあかすだろうと。それによって囚人は無実が明らかとなり解放され、また一方で悪行が露見した俺は当然の罰を受けるだろうと。そしてまた、そのときすべての人が、神の法と正義とが最後には明らかであることを知るだろうと。マルチェロはそのときをおそれ、同時にそれを心から信じて待っていた。
 だがそうはならなかった。誰も処刑場には駆け込んでこなかったし、かれを含めて誰一人として制止を命じはしなかった。処刑は滞りなく進んで首がひとつ落ち、胴ばかりとなったからだは取り返しようもなく音をたてて地に落ちた。まったくなにひとつ予定外なことは起こらなかった。
 処刑人が立ち去り、ふたきれに分かたれた死体が運び去られ、立会人が一人ひとり姿を消しても、マルチェロは動かなかった。そればかり残された大きな血だまりの傍らに立って、生臭い臭気を慕って集った黒い大きな蝿が、次第に羽音の数を増しながら日差しの中を群れ飛ぶのを見つめていた。
 さあ来い、来てくれ、とマルチェロは願った。正義を告げる天使、神の名のもとに悪を断罪する天使はたしかに、取り返しのつかない罪が二重に犯されたこのとき、まさにこのとき、かれのもとに来なければならないはずだった。マルチェロは目を閉じて、ひたすらにそれを待った。
 日は移った。高い塀に囲まれた処刑場は陰った。マルチェロはしびれたような体でのろのろと天を見上げた。おそらく、歴史の初めから多くのものが
このようにして天を見上げたのだろう。救済をまた罰を求めたのだろう。だがそうした思いが応えられたことはなかったのだろう。視界の果てに無数の哀願と祈りと呪詛とそれらがむなしくなったさまをマルチェロは見た。神は沈黙し、一度たりともなにをもなさなかったのに違いない。ただの一度も。
 マルチェロは信じた。この罪があばかれることはないだろう。この手に塗った血は闇のままに葬られるだろう。常にそうだったのだから。それによって罪も罰もなくなり、それによってあらゆる道徳律もなく、従って神もまたない。そこまで考えて、マルチェロは、ふいにすべての灯りが消し去られたような思いに襲われた。胸のうちに広がったのは冷たく冷え冷えした空虚だ。
「それでは」
 乾いた声でささやいた。
「わたしは一人だったのだな?」
 応えるものはどこにもなく、陰は音もなくかさを増していった。





この小文を書きながら、「太陽の男たち」じゃねーよなと思った。
むしろ遠藤周作の「沈黙」じゃねーか。しかもスケール小さっ。
しかしながら、眼目とするところはそれでいい。
物語の形を借りて普遍の問いを発することで、
読者にも同じ問いを抱かせる。それが第二の疑問文だ。
それで第三はというと、これは相容れぬことの証明だ。
例文はー…なんだろ。自作中ではよくやるけどな。


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