- 2006年07月16日(日) 勝利の女神の眼差しはゆらゆらとして定まらなかったが、 きみはそんなものにかまいつけはしなかった。 きみたちは勝利に近づいていると見えたが、 ああ、それさえどうでもいいことだった。 ただきみは幸福だった、解き放たれた一羽の鳥のように。 きみは右手に白球を持った。 捕手はキャッチャーボックスにいて、きみにサインを出す。 きみは笑いそうだ。いたずら小僧のように今にも笑い出しそうだ。 捕手は打者をからかってやろうと言い出している。きみはのる。 本当ならボールになるはずの縦のカーブをひとつ。 だが敗北におびえた打者は思いきりバットを振ってくる。 当然のごとく白球にはかすりもしない。 お次はストレートにみせかけてまたもやカーブ。 再びバットは風を食う。最後は内角に切り込むシンカーだ。 今度はバットは鈍く鳴って、勢いのない打球はワンバン、 一塁手のミットにおさまった。そして打者走者はむなしくすべり。 審判が試合終了をコールする。 きみははっと我に返る。なにが起きたのだろうときみは問う。 振り返ればスコアボードは3−1、それでは勝った。 勝ったのだときみはいう。だが喜びはまだこみあげない。 きみはむしろ、ついさっきまで広がっていた自由が恋しい。 勝利はそのようにきた。だが敗北はそのようにはこない。 敗北はもっと遠くから、長い時間をかけてやってくる。 それは冷え冷えとした寂しさで、そのとききみの前に道はない。 きみがそれを知るのはきっと、もうすぐだ。 -
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