- 2006年01月12日(木) Gグールド『たか、はと、フランツ・ヨーゼフという名のうさぎ』より改題、 『ドラキー、スライム、ククールという名の死人』 角灯は、鉄から鋳出された大樹の枝に吊るされた。灯火は星の現れ始めた夕闇の中に少し揺れ、真に迫って精緻な葉や枝を照らした。使者は少しのあいだその光を見つめていたが、やがて踵を返し、塔の頂の円形広間を渡って、小さな蝋燭の光に照らされた塔の主人の待つ方へ歩いていった。 「これでよろしいのですか」 塔の主人は鉄の卓子をはさんだ長椅子に横たわり、小さく頷いた。使者はトロデーン王の紋章のある鉄兜を脱いで、鉄の椅子の足元に置いた。 「ああ、助かった。起きれなくてさ」 使者は黙って椅子に座った。不思議なことに、この塔は天に届くほどの高みにありながら風の音ひとつない。塔の主人の卓越した魔法でもって、見えない天蓋が張られているのだろうと思われた。 「――あいつは変わりないか」 黙っていると、小さく問われた。少し考えてその意味に思い当たる。 「陛下は、あなたを案じておられます」 塔の主人は横たわったまま、ちょっと頭を傾げて笑った。その動きに流れた長い銀髪は揺れる火明かりの中で形ある光さながら美しく、またその髪に似つかわしく主人の顔も美しくはあったが、いまその目は落ち窪み、頬は削げて色薄く、乳白色の硝子からなるかとさえ見えた。その唇が動いた。 「変わりはなかったと伝えてやれ、いつもの通りだったと」 しばらくその顔を見つめ、それから鉄の木を見た。言葉にするには苦すぎる。だが黙り続けて世界が終わるのを待っていることもできなかった。 「騎士ククール、あなたは死に瀕しておられる」 目を閉じて横たわる騎士がかすかに笑い、その目を開いた。空の青の目は灯火を映した。硝子の器のようなそのかすかな光は、かつてトロデーンの王宮を訪れて王と笑いあった折りに見せたまばゆさに及ぶべくもなかった。 「あいつに言ってくれ、俺は最期までいつもと変わらなかったと」 その声は静かで、少しばかり楽しげでさえあった。 -
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