- 2005年12月26日(月) 身体がだるいのはなぜだ…。 なんでもいいけど小林秀雄熱がまたぶりかえしてますよ。 なんだかんだでもう七、八年は繰り返し読んでる。 なんでもいいが、私の素養はこう言えるなら、漢文である。 詩歌はかなり偏っているが、史書、文学、思想は多少読んだ。 漢文のあの独特な無駄のない韻律というものが、 私の血であり肉だ。似たような感じは西洋の神話・伝説で。 だからなのかどうなのか、小林秀雄はなつかしい。その思想もそうだ。 私に子供ができたら小学校のうちに漢文と和歌・古典くらいは読ませよう。 子供を育てるというのはひとつの精神を観察することか。 -------------------------------------------- シルマリル:マイズロスの死のこと 燃え盛る山は鳴動し、世界は揺れ動く。 「ことは成った」 赤く火照る噴煙の下で、マイズロスが言った。重苦しい、つぶれた声で。頭上に緋色の髪は乱れ、それまでも炎と化したようだ。表情は穏やかで、静かで、そして隠しようもなく疲労を滲ませていた。幾星霜もの疲労を。なんという疲労だろう、と、マグロールは考える。すべての炎が消され、望みの去った夜のようだ。 「私は行くぞ」 そしてどうだ! マイズロスはいま、軽やかに山頂を仰ぎ見た。噴煙ただならぬ山、荒れ狂う炎の、そして死の寝床と定めた。仰ぎ見て笑った。疲労は振り捨てられ、長年の苦悩、生の倦怠は冬の毛布のように落ちた。 「兄上、兄上!」 どんどんと厳しい山肌を登り始めたマイズロスに、マグロールは、思わず声をあげた。無駄と知りつつも呼ばずにはいられなかった。そうだ、無駄だということは明らかだった。誓言の呪詛、兄弟と一族の死はことごとく兄の長身の背から滑り落ち、マイズロスは歩むごとに若くなってゆく。あらゆる悲嘆と苦悩の皺は拭われ、すべてが手放されほどけ落ち。 「……」 マグロールは自分の言葉をもはや聞かなかった。いかに泣き叫ぼうと揺れ動く山の地鳴りがかき消し、自身の耳にさえ届かなかった。追って行こうとしても、足は動かなかった。マイズロスは次第に遠く、もう人形ほどにも見えなかった。それと認められるのは赤い髪と、断ち落とされた片方の手に代わってクルフィンの息子が作り上げた銀の義手のきらめき、そしてその銀の手に握られているシルマリルの光芒のみだった。それも遠く、遠く。 「――!」 やがて火口の赤に飲まれる。マグロールはこみあげる慟哭に膝をつき、涙に顔を濡らした。その頭上をもはやない二本の木の光の残滓が解き放たれてきらめき、明るく瞬いて、消えた。マイズロスは死んだであろう。 どのようにせばこうしたことに耐えられるだろうか? だがマグロールは兄の後を追おうとは思わなかった。マイズロスもまた誘わなかった。にも関わらずその最期を見ることは許した。それがなぜだか、マグロールは知っている。彼は重たげに身体を起した。重かった、重くないはずがあろうか? エルダマールをティリオンを出でてアルクウァロンデより船出し、中つ国に渡り来て。ああ行程は父を兄弟を一族を友人を幸福を領土を失う道であった。しかもマグロールは伶人たる本質ゆえにそれらを失い得ない。マグロールは世界から失われ行く一切すべてを歌に編みなおして身に帯びた。己が悲嘆もてつなぎあわせて。それらは心に蔵されて失われることがない。 失いえないことこそマグロールの恩寵であり呪詛であった。兄弟のうちでただひとり生き残り、なおもまだ生き延びねばならぬ。彼のうちにすべてのノルドの悲嘆の歴史は折りたたまれていて、これよりのち、声に出して歌うつど蘇るであろう。父フェアノールの憤怒と孤独と悲嘆が、伯父フィンゴルフィンのもとエイセル・イヴリンでかつて行われたもっとも壮麗な宴が、白い胸の乙女たちの愛と悲しみと勇気よりほかなにもなくともモルゴスと戦いを繰り広げたノルドやテレリやアタニの若者たちの最期の姿が。わけてもフェアノール王家の呪われた兄弟の生と死と相克が。 あの東部ベレリアンド、ゲリオンの流れの緑の草原、ヒムリング、ヒスルム。竜たちの襲来や、夜毎の宴や。ああ、すべてが。 マグロールは歩き始めた。シルマリルが焼いた手の傷はもう痛まなかった。我らは生きた、とマグロールは身を切る悲しみの中で考えた。我らは生きた。私はそれを覚えている。忘れることはない。けっして。 …ああ、だが。いつか。すべての歌が知られ、誰もが記憶するときがきたら、そのとき私は行こう。私は歴史のうちに立ち去って、そして戻るまい。 --------------------------------------------------- そういえば、私は、賞味期限が60日もあるクリームパンを見て多いに笑ったことがあるが、最近の肉類は冷やしてさえあれば一年ももつらしい。人の文明は極まっていよいよ狂気に近い。命日の一周忌を迎えた鳥や豚の肉。 -
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