終わらざる日々...太郎飴

 

 

『宿命の交わる城』 3:真っ直ぐな道で―2 - 2005年09月30日(金)

 もしマルチェロが、機会をみて反撃を狙っていたとしても、それは無駄な期待に終わった。槍衾の中で武器を防具を一つずつ奪い、一人ひとりを縄目にかけらる円柱城兵の手順はきわめて慎重で、執念深いとさえいえた。
 生き残った六人のうちの最後の一人として、マルチェロは小手を外し、脛当てを外して兵士に投げた。いちいちガランという音をたててまだ濡れている道に転がる防具は空しくマルチェロの自尊心を傷つけた。
「―これまでも、投げろと?」
 騎士団長の剣、サヴェッラにて法皇から改めて与えられ、オディロ院長によって腰に下げられた剣を手に持って、マルチェロは苦く尋ねた。一列に構えられた槍の向こうでダニエルが微笑した。遠くからでもそれと知られた狂気は、いまや火を見るごとく明らかだ。
「誇りある騎士団長の剣までも投げろというのか? 答えろ、ダニエル!」
 いらだちと不安がマルチェロにそう叫ばせた。だが答えはどこからもない。マルチェロは黙って剣を投げた。剣もまたガランと虚ろな音をたてて落ち、背の低い兵士が猿を思わせる敏捷さでそれを拾った。
 丸腰となったマルチェロの方にやはり小柄な兵士が二人、近づいてきた。肉に食い込むほどきつく両手を背後に縛られ、手荒く引き立てられる。槍衾が開いて道を作り、マルチェロは怒りに無言を保って歩いた。その頬に。
「阿呆め」
 吐きかけられた唾がねっとりと顔を伝い落ちる感触がある。顔を向ければダニエルがすぐわきに立っていた。背丈なら同じほど。赤毛の下の目の黒は。
「阿呆め。この阿呆め、水で死ねばまだ苦しまずにすんだのに」
 狂気の持つ落ち着き払った冷静さというものが、おぞましく燃えている。
「―なぜこんなことをした。おまえは自分の意思で騎士団を去ったのではないか。おまえ自身の爵位を継ぐために。我らにうらみなどないはずだ」
「苦しめて殺してやる。ひとりずつ苦しめて殺してやる。寸刻みにして」
「教会と王家に知れればただではずまぬのはわかっているはずだ!」
「殺してやる、火で、刃で、土で、鉄で。苦しめて殺してやる」
「ダニエル!」
 ほとんど引き倒されるようにして、拷問の杭を思わせる円柱城の暗がりに連れ去られながら、マルチェロは叫んだ。答えは牙を剥き出した狂気の哄笑であって、その彼方にかすかに羽音が聞こえた。


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