『宿命の交わる城』 2:城門の方へ - 2005年09月02日(金) 嵐が来ている。マルチェロは、天を流れる雲の速さに眉を寄せた。落ちてこないのが不思議に思えるほどの重く湿気をはらんだ黒い雷雲だ。まだ地上に風は吹き始めていないが、それも時間の問題に過ぎまい。 「ジェズイー」 先を進んでいた短髪の騎士が振り返った。その頭上の青い旗は重苦しく垂れ下がり、彼方にはゆるやかな傾斜を持った長い道が続いている。アスカンタ北部の美しい牧草地帯が広がっていた。彼方にそびえるのは北の山地、王国とマイエラ・ドニ地方との隔壁なす高い山々だ。 「いかがしました、団長」 馬上、身を傾けて問いかける騎士に暗い天を示した。 「半時もすればひどい嵐になる。みなを急がせろ。降りだす前につかねば」 長年副団長をつとめる年長の騎士は笑いつつ肩をすくめた。 「なに、ダニエルは構わぬでしょう。私はあれが修道院で騎士見習いをしていた子供の頃から知っていますが、気さくな男です」 マルチェロは否定的な思案の際にいつもするよう、わずかに頭を傾けた。ほんの数年前まで、円柱城の主人ダニエルの鮮やかな赤毛は騎士団にあった。初めは騎士見習いとして、次に騎士として人望厚い男ではあったが、年が近いにも関わらず、マルチェロとは親しかったことがない。廊下を行きかうつどに感じた奇妙な感覚は、悪意とは言い切れぬまでも、冷ややかであったように思われた。 「いかに昔馴染みとはいえ、ぬれねずみが十二匹も駆け込んでは迷惑だろう」 「さよう、急ぎましょう」 ジェズイーが笑い、乗馬に軽く拍車をあてた。旗手の先導のもと、足並みを速くした一行の行く手に稲妻が輝いた。かぎざきの光は、意図せざる手の書き付けた文字のよう、暗い天に走り抜けた。その炎を追って、雷鳴が轟いた。 -
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