- 2005年07月12日(火) 栃木大会四日目は朝から梅雨の二文字を書いたような雨。だが試合は始まる。ひとつには多くの関係者の予定がその日に合わされているため。もう一つには高野連が球場を借りている日数が限られているため。それなら彼らは幸運なのだ、清原球場は人工芝で水はけがいい。この日の第一試合は茂木―黒磯。県有数の右腕・馬籠を擁して秋春連続でベスト8入りを果たした茂木に対し、黒磯は県立中堅校にすぎない。 それで彼は気負ったか。いいや、彼は終始、笑っていた。小柄な投手の名は高根沢。春の大会中に足首を骨折して発進が遅れたから、エースナンバーは2年生に譲って背番号は10。日に焼けたじゃがいものように彼は笑っていた。霧雨のマウンドで。 五回、茂木・後藤の本塁打などで2点を先制される。スタンドに消える打球を彼は見送り、眉を上げて笑って見せた。彼の言い分はこうだ。俺はこのグラウンドで一番高いところにいる。だから上を向いてるだけさ。 その裏一死、彼は打席に立った。おあつらえむきに、三塁には塩川が立っている。ここで打てばそうだ、ヒーローか? 彼はバットを振った。打球は中前に落ちた。三走は還った。そこから試合はもつれる。六回無死満塁の危機を救ったのは背後の機敏なプレーが演じた併殺劇だ。昨年の今頃はこんなプレーが自分たちにできるとはついぞ思いもしなかったような。彼は勢いづく。そうだ、夏はまだ始まったばかりではないか。この仲間との野球をこれで最後にするのはもったいない。八回、1点を奪い奪われて同点のまま九回は双方無得点で延長へ。 十回を終えてマウンドを降りてきた高根沢の足は痛んでいた。次は下位打線だからいい。だが十二回は? ちょっと厳しい。彼はベンチの前でキャッチボールを始める。一人目はあえなく右飛。二人目は同じ方向に安打。三人目が犠打で送って四人目は井上拓、ここまでヒットらしいヒットのない4番打者だ。彼は井上が春から不調に苦しんできたのを知っていた。だがまだ信じてもいた。こいつは打つと。だから手を止めて静かに待った。 球場は息を潜めている。マウンドの馬籠はキャッチャー阿久津に頷いた。セットポジションから投球姿勢に入る。初球は外角低めの直球、ゴロ狙いのボール球だ。井上は打つか?打つ。打った。打球は中堅の頭を越えて濡れたフィールドに落ちた。走者は還るか?還った! 勝ったのだ! ナインはベンチから飛び出した。彼も走った。足の痛みのことはそのとき忘れられた。井上をもみくちゃにしながら、彼らは笑った。ああ、今度こそは何の気負いもなく。混じりけのない喜びはどこにあるのか。決まっている、まだ明日も、こいつらと野球ができる。 あなたがたは一切を賭けて明日をあがなう。それとも明後日を。そしてその短い時間を愛する。死刑囚が朝の5時から執行時間の9時までの短い時間に永遠を見るように、あなたがたはそこに永遠を見る。さあ、行くがいい。 ------------------------------------ それで、ディープブルーだが。 「外洋」「サンゴ礁」「南極」というだけで、具体的な地名はない。 これは多分、あまりにもたくさんの箇所で撮影したためと、 あと、こちらの方が大きいかもしれないが、 「人間の名づけ」の外の世界を意識したせいではないかと思う。 そのせいかもしれない、この映画が大好きなのは。 -
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