- 2005年07月06日(水) ヨナだ。ヨナ。ヨナになりたい。 頭上をゆくサメの群が青くにじみ遠く去るのを見送りたい。 海中を飛ぶ鳥の群を水面から見下ろしたい。 ジンニーア、あなたはまったく、どれほど豊かだ。 しかしシャチを見たあとにホオジロザメを見ると、 実に無骨で、ブリキのおもちゃのようだ。 シュモクザメにしろネムリブカにしろ、実に不恰好だ。 水底に連れて行け、ジンニーア、ジンニーア、ジンニーア! ------------------------------------- 海は銀色の獣の息づく皮のようだ。波頭は砕けて白く散る。ククールは崖から身を躍らせ、輝く水面に向けて身を投げた。呪文は飛沫のごとくに彼を包んでその身を変え、水漬くよりさきに銀鱗輝く一匹の巨魚とした。胸鰭のあたりに一筆撫でたよう、美しい青い模様があった。 ククールであり巨魚であるその生き物は、気泡をまといつつ水に沈み、尾びれを力強く一振りすると、海面近くに浮上して頭を北に向けた。水面は薄緑に輝きながら彼の周囲に波打ってさざめき、潮は周囲を廻った。 長い旅になった。ククールであり巨魚でもある彼は空腹を満たすためにときおりイワシの群や若い海生動物を狩りながら、北上を続けた。おこぼれにあずかることを期待するパイロットフィッシュの一群が左右にひらひらと泳ぎ、扇のように広がった。彼は浅瀬を幾つか過ぎたし、嵐も幾つかやり過ごした。海底に沈む帆船のマストを幾度か目にしもした。海は次第にその様相を変えた。水はもう緑ではなく、ククールの目の色だった薄い青で、温度もずいぶん下がった。パイロットフィッシュたちもいつしかいなくなった。 彼は独り旅を続けた。やがて氷の海が広がり、純白の上と鮮やかな青が交錯する氷山が頭上に並んだ。彼は一度頭上を見渡し、この鮮明なかがやきの世界に最後の一瞥をくれると、頭を先に深淵へと分け入った。 水は冷たく、もう生き物を見かけることもない。光はまだらの帯となり、やがてちらちらと瞬く点にすぎなくなり、そのうちそれも消えた。彼はなおももぐり続けた。水圧はいよいよ厳しく、水はいよいよ暗くなった。 ククールであり巨魚であるその生き物は、ようやく力尽きようとしていた。水圧はひどく厳しく、胸鰭も尾びれももう凍えきって動かなかった。あたりは闇が実体として立ち込め、もはや何を見出すこともなかろうと思われた。だがその生き物が息絶えようとしたその瞬間―― 水底に灯りがあった。それともそれは幻であったのか。ククールであり巨魚である生き物にとっては真実であったのだから、それは問題ではなかった。星のない永劫の夜のごとく果てしない闇のさなか、たった一つの光があった。最後の力をふるって近づけば、それは人の形をしていた。横たわった人の姿をして、わずかに首をかしげて目を閉じていた。金と青の衣装は水の流れに従って揺らめいた。彼は静かに水底の死者に寄り添い、白い塵の海底に横たわった。そしてそれきり動かなかった。 -
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