- 2005年05月17日(火) 「ともに行こう。世界の果てのその外まで。時の終わりまで」 アイグノールが言った。父親と同じ金髪は夕日に赤々と映え、その男の輝かしい横顔をいよいよ強く険しく見せていた。小暗いヘレボルンの湖にあって燃える松明のごとく。大地の奥底から目覚めたルビィのごとく。カランシアは従兄弟を一瞥し、それから視線を外した。 「行けぬ。――行かぬ」 「後者ならば仕方ない。だが前者であれば連れ去ろう」 カランシアは膝を立てて木下闇に座り込む。漆黒の髪は流れて頬を覆い、その目は音もなく半月形した目蓋に閉ざされた。 「答えろ、従兄弟よ」 焦れもせずに促す声音が響き、湖畔の空気を静かに揺るがした。それは見えざる湖面に投じられた小石のようだった。波紋は広がり揺らぎ。 「世界を滅ぼせ、アイグノール。灰燼とせよ。山々を引き抜き、海を干せ。星々を堕とし、神々を殺しつくせ。さすれば」 そこで声は震えた。灯火の震えるよう。アイグノールは眉を寄せ、暗がりの従兄弟を見下ろした。その影はすでに定かでない。嘆きと悲しみのあまり形を失ったのかとさえ思われた。 「――カランシア」 だが闇のうちに入ればそこに少年めいた影はさらに暗く、うずくまる。アイグノールはうつむく従兄弟の傍らに膝をついて抱き寄せた。 「世界を滅ぼせ、従兄弟よ。創造主の御座さえも引き摺り下ろされる日が来たなら。ああその日が来たなら私は行くだろう。おまえと行くだろう」 「泣くな」 腕に抱き取った身体は目が知っていたより小さく、そして冷たく震えていた。このような小さな器になんという悲嘆、なんという嘆きがたたまれていることかと思えば眩も暈む。アイグノールは頬を寄せた。冷たい頬だった。 「泣くな、カランシア。きっと連れて行くから」 「だが」 カランシアが囁いた。 「教えてくれアイグノール、いかにして。いかにして。私は行きたい」 アイグノールは答えるすべもなく、ただ口付けするよりほかにない。冷たく、荒涼たる風か揺れ騒ぐ不安な炎を抱くにも等しい、空しい口付けを。 カランシア総受け連盟とか作るかなー。(会員は私一人だな) -
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