- 2005年05月11日(水) 草原に風が吹き抜けていく。カランシアはただ一人、黄昏の野辺に馬を駆けさせていた。漆黒の馬は騎手の想いそのままにあてどなくまた速く走った。カランシアは語らず、その表情も頑なに沈黙を守る。だがこの騎乗を言葉とすればこのようにも言えただろうか。すなわち。 ――私は泣かぬ。涙が私に追いつかぬからだ。私は語らぬ。言葉が魯鈍に過ぎるからだ。私は行きつくことがない。中つ国にも海の彼方の地にも私の求めるものはないからだ。にも関わらず私はここに生きており、あらわさねばならぬなにか、語らねばならぬなにか、行かねばならぬどこかを胸のうちに持っている。それは呪詛のごとく私を食い破ろうとする。食い破ろうとしている。誰ぞ来たって我を助けよ。ああだが私を救えるものなどない。 漆黒の馬は手綱を引かれていななき、後足立った。カランシアはその背から降りて大河ゲリオンのほとりれを眺め渡した。美しい夕べであった。東方はすでに夜、ヴァルダの手になる星々はさやかに瞬き、天の頂で夕暮れの名残と溶け合っている。西方に黄色い陽の残りがたなびき、地平の上にわだかまる雲は一つの音符のごとく赤紫に焼かれている。風も止んで音はといえば流れる大河の無音の流れのみ。カランシアは両手で顔を覆った。 「――そうして、木にでもなるつもりか」 静かな言葉が落ちてきた。深く穏やかなマグロールの声音で。次いでその温度が双の腕の形をとって抱き取られる。カランシアは顔を上げない。 「おまえを救うことができたなら。おまえを泣かせ、おまえに語らせ、おまえの望む場所に導いてやれたなら。――カランシア、愛している。それでは足りぬであろうが、それだけは理解せよ。それだけは心に留めてくれ」 切なさ書きたい。かなしさ書きたい。あああ。(やなことあったって) -
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