終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年03月10日(木)

肉体の迷宮性:死刑執行人の両義性:神に対する罪と人に対する罪:火刑
…について考えている(なんのこっちゃ)




影を歩み:
 口付けの味はそもそもの初めから血のそれ。そうであればこうなったことに不思議はない。兄の心臓を貫いた剣を引き抜き、まだ温みの残る鋼に触れた。目を見開いたまま死んだ兄はかすかに唇の端から血をこぼし笑いもせぬ。
「…さあれ、この手に罪あり」
 ククールの唇からは祈りがこぼれる。初め静かにやがて狂おしく。切迫した早い呼吸がその声を高くしてゆく。しまいには叫びと変わるところなく。
「この手に罪ありて我が嘆きなり。
 主よ、僧は御前にありて言問わんとす。
 然り、是は問いなり。
 などて大道の上に躓きの石を置き給いしか。
 などて人に罪犯すこと許したまいしか。
 御身は地の底に落ちて生まれ在れしことを呪うものどもに
 いかなる理を語りたもうか。
 僧は問わんとす、悲しみに満ちて」
 ククールは兄の手をとって穴の開いた心臓の上に組ませた。祈りは絶叫により近い。百年も前に死んだ僧侶の残した言葉はククールの唇と舌を借りてここに蘇り新たに悲痛な意味を付与されて暗い森に響き響く。
「問わんと…ッ」
 ついに言葉が途切れた。ククールは号泣をもはや抑えず兄の上に伏した。半ば狂気し刃を手に彷徨して人の世に害なす兄をこの手で殺さねばならなかった、その悲嘆が胸を破る。兄はあの日、あの場所で言ったではないか。「私の命を助けたことを後悔する」と。その通りだ。助けた手で殺したことを嘆かずにいられるはずはない。悔いずにいられるはずは。兄の赤く染まった青い衣をククールは握り締め、顔を歪めた。涙はその頬を落ちてゆく。
「――されど主よ、僧は御身に帰依するものなり。
 御身によりて見ることをし、
 御身によりて聞くことを許され、
 御身によりて歩むものなり」
 嗚咽するククールの背後で黒衣の僧侶が祈りを続けた。罪人マルチェロの死の見届け人、法王庁から使わされた刑の執行者ククールの付き添いであり見張り役であった。僧は祈りをこめて十字を切った。
「僧は証す。
 御身をおいてほかに神なく、御身のなせしことすべて深き由縁あるを。
 しかるのちに信仰をここに告白す。
 我ら永遠の家に依るものなり」
 ククールは泣きながら首を振った。最期に兄から奪った口付けの苦さはまだ舌の上にあって、ククールを手酷く責める。


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