- 2005年02月26日(土) 「ランドルフ・カーターは三十になったとき、 夢の世界の門を開く鍵を失くしてしまった」 H.P.ラヴクラフト『銀の鍵』冒頭より 怪奇作家として知られるラヴクラフトの作品中、この小品ばかり美しい。作家カーターは生活の半ばを占めていた夢を捨て去ったが後に現実に倦み、銀の鍵を持って失踪した。誰もが彼は死んだと思ったが、彼をよく知る友人は、ランドルフは幼年期に帰っていったのだという。 自閉症で絵の才能を持つ天才少女がいた。生活能力はまったくなかったがスケッチの馬は生きているようだった。彼女は「世の中に適応させる」という名目で絵を禁じられ、訓練された。その結果バスに乗ることさえできるようになったが、医師はいう。「天才少女から天才を取り去って、あとには何をとっても世間並み以下の不幸な少女が残った。このような治療を行ったわれわれ医師とはいったい何か」。 家族や恋人の代わりに幻想を身の伴侶としているものから、その半身を奪ってはならない。それはその人間を永久に片環にしてしまう行為でありまた、魂の殺害にも等しい。彼らは一般に変人奇人と評されながら、その足は人の及ばぬ輝かしい彼岸を歩んでいるのだ。 -
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