- 2005年02月21日(月) マルチェロは頭をもたげた。その頭上に輝く真昼の光がかかり、初夏の爽やかな香が大気に満ちていた。だがそこばかり光届かぬ緑の泉の深みのごとく、あるいは緑陰深い森のごとくその緑柱石の瞳は陰に満ちている。そこまでククールの見たとき、マルチェロが振り返った。 「――…」 何か言おうとするようその口が開くのが見えて、ククールの鼓動ははねた。あの声は呼ぶだろうか。この名を呼ぶだろうか。冷ややかではない声で? あまりの恐れに目眩むのをおぼえてククールは祈るよう目を閉じた。 頬に触れるものがある。やわらかくはない。だが金属でも樹木でもない。ククールは震えながら目を開いた。もしも、もしも―― 立っているのは彼の兄だ。その瞳がすぐそこにある。すぐそこに。彼の兄が手を伸ばしたその距離。指先は頬の上にある。そして涙をぬぐっていく。泣いていたのだとククールは悟り、それ以上に言葉を失った。涙ににじみ、ややもすれば形を失いかける世界の中で―― マルチェロは微笑した、ククールが幾度となく夢見たよう。 「泣かなくて、良いのだよ」 あやすように語りかけてくる。子供にそうするよう。両手を伸ばし、ぼやけた青い布をつかんだ。額を押し当てれば、そのまま抱き取られる。 「もう一人では、ないのだからね」 ククールはうなずいた。幾度となくうなずいた。これが夢であればとククールは痛切に願った。これが夢であればけして目覚めないようにと。 -
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