- 2004年06月24日(木) 3.免疫 たらいに張った水の底から、廷吏に引き出される被告のように、悪い種子が足早に浮いてくる。芽生えと生育に必要な滋養を持たない種子はくるくると水流に浮かび、水とともにあふれこぼれて消えていく。真夏の光は水に輝いた。由紀子は縁側の日陰にしいたふとんの上で親指をしゃぶったままで眠っている。私は私の影を水流に映した。麦藁帽子をかぶった影は歪んで揺れた。 存在しなかったものを惜しむことは誰にもできない。私は私の胎から流れていったあの子のことを考える。一人は生まれ、一人は流れた。悪い種子か。私の胎内で芽生え生まれることなく流れて消えた。存在したこともない。私の体が私の子供を殺してしまった。それというのもあの子の――が父親の形を継いだため。 私の体があの子を殺した。あの子を水にし流してしまった。それは私の憎しみだったのだろうか。私はあの子を憎んでいたのだろうか。憎しみは存在したのだろうか。夜半密かに実体となり私の体液の流れにのって、静かに殺し溶かしてしまうほどに根深く。私は立ちあがった。長い夏の日はなかなか暮れてはくれない。私の足をぬらして、陽光に温んだ水が静かに流れていった。あの日あの子もそうして流れた。 -
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