- 2004年06月20日(日) 2.ミトコンドリア 私は彼女を所有したいのか、抱きたいのか。それとも食べたいのか、痛めつけたいのか。愛とは奇妙なものだ。どうしたいのかという目的を欠いたまま、ベクトルだけがどこまでも肥大してゆく。そして私も彼女もどこへも行けずに車を走らせる。車は夜半、がらがらの湾岸線を走る。ライトアップされたベイブリッジがふいにかすんだ。雨だ。 私はワイパーのスイッチを入れた。エンジンの重く静かな軋みに、ワイパーがフロントガラスをこする規則正しい音が加わる。それはまるで行為のクライマックスのような規則正しさだ。強めに設定した冷房がひんやりと肌や空気を冷やす中、私は葉巻に火をつけた。渋みの強い香とともに、白く浮かぶ煙が狭い車内にすじを引く。横目で彼女の横顔を見た。街灯の光が淡く照らす彼女の頬を、私のつけたあざが翳らせていた。 私は何も言わなかった。彼女も何も言わなかった。私と彼女の肌は湿気を帯びて冷えていた。大排気量のエンジンだけが心臓のように明るく熱くボンネットの下で燃え、私と彼女といくばくかの鋼鉄からなる奇妙な混合体を海沿いに遠く運んだ。視界の端を流れるコンビナートの無秩序で有機体を思わせる光の群れが、同種の生き物のように親しかった。 -
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