終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2003年12月10日(水)

インタビュー:ハンナ1

 私が彼女と会ったのはもう十年も前の冬だ。そのときでさえ彼女は年老いていた。真っ白い髪を耳の下で切り揃え、琥珀の縁の眼鏡をかけた彼女は、歌を思わせる節のいい言葉にむやみに間投詞を多用した口調でで話した。彼女の名前はハンナとしておく。彼女がもう生きていないだろうと私は思う。

 私たちは黄色いテーブルの喫茶店で会った。注文した紅茶が来るまえに、彼女は話し始めた。私は机の上に真新しいノートと尖らせた鉛筆を半ダース広げた。外は寒かったが、喫茶店の中は温かく、彼女は赤いコートを椅子の背にかけていた。

 あなたはきっと、私の箱のことを知りたいでしょうね。(彼女が言った)
 ですから、まずそのことから話すことにしましょう。ええと、あれはもう何年前のことになるのかしら。今年が19××年だから、もう半世紀も前ね。私は××××の×××収容所で看護婦をしていたの。それは忙しかったわ。看守たちは連中の健康のことなんて考えないから、けがや病気で連中はしじゅう運びこまれてきたわ。私たちはしまいには面倒くさくなって、放っておくようになった。
 そう、箱のことね。最初は本当に、ただの箱だったの。ただ蓋がついていて大きめだったから、取っておいたのよ。母になにか送るのに使えるかもしれないと思ったの。そういえば、××××は林檎の木が多かったわ。
 だから、偶然だったの。最初は思いつきと面白半分ね。看護婦仲間は笑い転げたわ。みんな私の思いつきが気に入ったの。当時の婦長はあんまり笑いすぎて、その日一日中、点滴の針を間違えて何度も何度も刺し直してたわ。
 あら、ごめんなさい。少しとばしたわね。私、いつもこうなの。もうおばあさんね、だめだわ。ええと、どこまで話したかしら?ああ、そう。そうね。
 私は名前をつけなかったの。ただ、箱って呼んでたわ。でも金髪で、かわいい顔をしていたのは覚えているわ。最初のうちはよく泣いたわね。そそうをしたら、ぶつかわりにうんとひどく箱ごと揺すってやるの。わかる?面白かったわ。甲高い声を上げて泣くと、私も仲間も声を上げて笑ったわ。ええ、そうなの。昼間は仕事場に置いてたわ。だってみんなが持ってきてってせがむんですもの。それに部屋に置いておいたら、勝手に出てしまうかもしれないでしょう?その点、仕事場なら、騒げばすぐに誰かがやめさせてくれたもの。いつも静かにしてたわ。


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