Hales - 2003年07月02日(水) 思い余ってトールキン@ファンフィクション。 日記で連載してみようの罠。あの、私、忙しいんです。(転勤決まったしな) で、超マイナーネタです。ネタ本は『シルマリルの物語』。 へたくそなのは御愛嬌。 文字ちっこくて行間狭くて読みにくいですがこれどうすりゃいいの? フォントでいじるとでかくなって見苦しいんだ…… 一応健全でノーマルでロマンスなつもり。 でも血ィしぶいてます、1回目。四回予定。 用語説明: エルダール…エルフ エダイン…人間 --------------------------------------------------------------------- 1 濁った川の唸り、オークたちのどす黒い歓声と金属の弾ける音、同胞の悲鳴――戦いの喧騒にも関わらず、ハレスは澄んだトランペットの音色を聞いた。すでに浅瀬は敵の手に渡り、川の中州の粗末な砦は生命線ともいえる柵を破られて敵の侵入を許していた。剣を手に持てるものは女子供に至るまで、最後の陣地となった泥と石の小屋の前で、攻め寄せたオークとの間に絶望的な防衛戦を試みていた。死と全滅は目前のはずだった。 ハレスは顔を上げた。トランペットは再び喨々と戦場に吹き渡った。川向こうを埋め尽くし月光を浴びて輝く軍勢をハレスは見た。旗標は――星だ。それでは、援軍はほんとうに来たのだ。父はすでになく弟も死に、砦は破られたまさにこの絶望の瀬戸際に。勝ち誇り勝利に奢っていたオークの群から悲鳴に似た叫びが上った。 星の旗標は高く翻り、みたびトランペットが鳴った。と思う間に白銀の軍勢はオークの群に襲いかかった。エルダールの戦士たちは鋼の壁のごとく岸辺に攻め寄せ月の光に刃と甲冑を白昼のように輝かせて、逃げ惑いあるいは絶望的な攻撃を仕掛けるオークの軍勢を抗いがたく圧殺していく。 「ハラディンの族よ!」 ハレスは叫んだ。泥と血に汚れた長い髪が乱れて荒々しく頬を打つ。 「援軍が来た、撃って出よ。エダインの豪勇を見せよ。悲しみの代価を、失われたものの代価を敵の血にあがなえ!」 ハレスの声は戦場を圧して響き、生き残ったエダインが歓呼の声で答えた。砦の中まで攻め入っていたオークの群は一斉に逃走に転じ、今まで防戦に努めていた者たちが今度は追跡者となって、叫びながら走り出た。背後を衝かれたオークたちの甲高い悲鳴が続く。ハレスは破られた防護の柵を出て自ら先頭に立った。女とみて襲いかかってきたオークの一匹の首を槍の一閃になぎ払う。牙を剥いた畸形の頭蓋骨は草の上に転げ、闇に消えた。父の槍だった。受け継ぐべき弟もいない。だが復讐の喜びは悲しみに勝り、ハレスは槍を振るいながら声高に笑った。もはや敗北の戦いではない。全ての借りを返すときなのだ。中州の砦を出て浅瀬に進み、なぎ払い突き殺し何匹かのオークをたて続けに槍の錆にしたとき、ふいに味方の悲鳴が聞こえた。獣のような太い唸りも。 「――……トロルだ」 傍らで剣を振っていた少年がかすれた声で呟いた。 夜の中に不恰好な巨大な影がある。丸太のような拳を振り回す巨大な生き物のまえに、銀に輝くエルダールの戦士たちが盾を揃えて後じさり、エダインは傷つき逃げ惑っている。 「トロルだ、青の山脈から連れて来たんだ!」 ハレスは躊躇しなかった。怒りがハレスを導き、戦闘の間を縫って飛ぶように走った。オークをついでに何匹かなぎ払い、トロルを囲むエルダールの頭上を飛び越し、その銀の盾に手をかけてひらと身を躍らせる。足の裏を濡らす浅瀬の上に降り立てば、頭上高く、突然目前にあらわれたハレスを見て困惑したトロルは鈍牛のように首を傾げた。 「エダインの娘よ、危険だ。我らに任せて下がりなさい!」 エルダールだけの持つ涼しい声が後ろから呼びかけたが、ハレスは答えなかった。 戦いの場に立つ喜びがあった。身の底深く、ふつふつと煮えたぎる怒りに疲れは消えた。その鈍い頭のなかで何ほどか納得がいったのか、トロルは不器用な仕草で巨大な拳を持ち上げた。だが振り下ろされるときは迅速だ。ハレスは横ざまに跳ねて逃れ、その勢いをばねに槍の穂先をトロルの腹に深く突き立てた。同時に叫ぶ。 「父の死を償え!」 銅鑼のような悲鳴が上がりトロルは巨大な拳をあてもなく振り回す。周囲を囲んでいた数人のエルダールがあおりを食って弾け飛んだ。だがハレスは身を低くして拳を潜り抜け、川底を蹴って伸び上がりながらトロルの喉元めがけて槍を突き出した。 「弟の死を償え!」 ハレスは叫んだ。だが槍の穂先は少しばかり反れ、トロルの肩に突き刺さる。引きぬくより先にトロルが長い柄を掴んだ。同時にたたらを踏んだハレスの足の下で石が滑った。愚鈍だが狡猾なトロルの瞳が光り、視界の端で拳が持ち上げられるのを見た。そのとき。 ――星が輝いた。 夜に縁取られたエルダールの貴人の一人の横顔をハレスは見た。星の紋章を帯びた甲冑、兜に代えて額に一つ星。三日月さながら輝く剣が振り上げられ、いつとも気付かぬ間にトロルはその胴を二つに断たれて重い音とともに崩れ落ちた。月の光は断たれた骨と撒き散らされる重い臓物を奇妙なほど静かに映し出した。 「エダインの女戦士よ」 敵味方静まり返ったなかでエルダールの公子が言った。その声の深い響きに、浅い流れに座りこんだまま、ハレスは腹の底から湧きあがる震えを感じた。 「まだ戦いは終わっていない。オークの最後の一匹まで掃討し尽くせ、復讐せよ」 「失われたものたちの名において」 ハレスは低く叫び、槍を掴んで立ちあがった。身内に凶暴な衝動が燃えあがる。見れば川向こう、下流の森から新たなオークの一群が夜を汚し、なだれを打って押し寄せてくる。 「復讐を、殺戮を!」 ハレスは叫んだ。生き残ったエダインが天を衝く叫びを上げる。 「オークどもを殺せ、殺しまた殺し、さらに殺し尽くせ!」 エルダールの公子の叫びにはエルダールの全軍の叫びが続いた。 横目で見れば中州の砦は銀の鎧武者たちで固められている。ハレスは身軽に走り出し、岸辺を一気に駆け上ると、前線を越えて敵軍のただなかに飛び込んだ。黒い槍の一振りに黒い血がさっと溢れ、オークの群がどっと引く。エルダールの戦士たちが銀の声で歌う殺戮の歌がなおも血を熱くした。あまりにも前に出すぎたことは知っていたが気にかけはしなかった。囁く声を聞いたからだ。 「存分に働かれよ、余はそなたの背を守ろう」 そして事実、影のように、背中併せになってエルダールの公子はハレスを守っていた。どのように動いても少しの妨げにもならずその存在もほとんど感じられないほどだったが、オークの骨に刃こぼれした槍に月光を輝かせながら、ハレスは背後の騎士が振う鋼の剣の残曳を視界の端に見ていた。醜悪な顔をしたオークたちの尖った粗悪な鎧の隙間を突き、悲鳴と血を聞きながらハレスは叫んだ。 「復讐を、血には血の代価を!」 その都度応えるよう、背後で公子が叫ぶ。 「殺せ、殺しまた殺し、さらに殺し尽くせ!」 円を描くよう互いに互いの背を守りながら戦場を走りつづけ、ついにオークの最後の一群が逃走を始めても、この一組は手を緩めようとしなかった。 -
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