- 2003年03月28日(金) 海棠の寺。 1: 神奈川県鎌倉市、妙本寺。 境内に植えられた海棠で名高い寺である。 仕事で長谷の大仏を見に行った帰りに寄ってみた。 海棠はサクラなどと同じバラ科の樹木で、 サクラよりやや遅れて咲く。花はサクラと同じ五弁。 ソメイヨシノを代表とするサクラの印象を清浄とするなら、 それよりも赤色の強い、雨に薄められた人の血を思わせる色をしている。 かつて中原中也と小林秀雄も訪れている。 晩春の一日、二人は石に腰掛けて花散る様を眺めたという。 2: 山門を入り、ほとんど住宅地となっている長い参道を歩く。 石段を登ると、また門があった。 寡聞にして私は、二番目の門を何というのか知らない。 その門の――鴨居というのだろうか。 翼のある竜が睨みをきかせていた。 浮き彫りにされた竜は翼は半ばまで鱗に覆われ、それより先には風切り羽。 猛悪な顔は獰猛で、翼掲げた姿はさながら生けるがごとく。 顔料は落ちて色あせてはいたが、 鎌倉の時代に花開いた写実主義は確かに見て取れた。 門をくぐると、正面に殿屋。 境内には数樹の海棠。 3: まだ花は咲いていなかった。 赤い蕾が長い茎の先に無数に下がり、早い若葉が濃い緑色を浮かべていた。 最も見事の一つに近づくと、一輪だけ開いている花が見えた。 満ちに満ちた杯の、その最初に溢れた水滴のひとつか、と。 そう思えた。 境内は静かであったし、それほど人もいなかった。 私はしばらく樹下に立ち、回りを見渡した。 殿屋に前に巨岩が一つあった。 確かに中也と小林秀雄が座った石であっただろう。 -
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