終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2003年02月24日(月)

 石よりなる寺院の庭は広く、石畳の間からは草が生えていた。

 十塚は顔を上げる。眩いような白い布を腰に巻いただけの男が立っていた。
 浅黒い肌、彫りの深い顔立ち――男は微笑とも静謐ともつかぬ表情をしている。
 十塚は、座っていた石の象から立ちあがる。背丈は少し負けている。
 男の背後に古く暗い寺院が見えた。壁の浮彫りは踊る神だ。世界の破滅を司る。

「お勤めは、終わったんですか」

 男は、口止めするように人さし指を唇にあてた。そこで十塚は黙った。
 男は裾を払うようにしてその場に座す。その緩やかな動作は舞踏を思わせた。
 遠雷が響いた。雨を降らせながら、暗い色の雲が遠くを移動している。
 さあと湿気の混じった空気が頬を打った。
 屋根の下に入らないのかと男に訊こうとして、十塚はやめた。
 男は雨を受けにきたのに違いなかった。この寺院に寝起きしてもう三月になる。
 それくらいはわかるほどには、この男のことを知っていた。
 この男――若き「神」。

 十塚はその男の周囲に幾重にも揺れる影を見ないようにした。
 その影は嘆くように悲しむように男に寄り添い、陰りを濃くしている。
 影は、人のようにももはやそうでないもののようにも、見えた。
 それはおそらく、先ほどまで男が食っていた死人の亡霊だろう。
 その「勤行」の後には、いつもそうだ。
 雨が止む頃にはすっかりと消えているはずだ。

 十塚のそうした思考を見透かしたように、男が見上げてきた。
 その瞳は暗い井戸のようでも、未明の空のようでもある。

「明日、発ちます」

 十塚は言った。
 日本を出てから、半年が過ぎていた。もうすぐ弟の命日が廻ってくる。
 大地のあらゆる諸物を叩いて、激しい雨が降り始めた。






*若き「神」:シヴァスワミー・ラージャゴーパラチャーリ。


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