終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2002年03月18日(月)

帰還しました。
スペイン、モロッコ、あわせて3週間あまりの旅です。

……短かった。(社会人が聞いたら殺されそうだ)

一人でこれだけの長さの旅をするというのは、
よく考えたら初めてでありました。
寂しい? とんでもない、気楽でした。楽しかった!
ちっとも疲れていないで、さあ残り少ない春休みをどう満喫するかとか、
さっそく考えている自分が怖かったり。(笑)

……まあ、
連日体を伸ばしては眠れない夜行(電車・バス・飛行機)も、
あ、ごはん食べるの忘れてたってかいつ最後に食べたっけああ昨日、も、
なんか風邪っぽいや困ったな医者と言葉通じないぞここでホネかな、も、
美容師さんちょっと待って眉毛が出てるそれじゃ猿猿猿!(号泣)、も、
あ、もうお金ないや銀行閉まってらそういや明日土日じゃんどうすっか、も、
……3週間もあればいろいろあったけど。(フゥ)


うーん、旅先で一番考えたのはね、
言葉ができないと、人間って、幼児以下……ってことかな。
いや、スペインって、英語通じなくってさー。
モロッコでの方がまだなんつか、幼児ぐらい(おい帰国子女)だったかなあ。
切符を買えて、ホテルも取れても、新聞読めないからねー。
生活を社会と共有するレベルがほんっと幼児になっちゃうんだよ。


それから……
あのね、ヨーロッパって、鐘の国なんだよ。
一時間おきに、あるいは15分おきに、鐘の音が聞こえるの。
町には大聖堂のほかにも幾つも幾つも教会はあって、
正午の空にその鐘の音が空中に響き会う。

――ねえ、わかるかな。

それに対し、アラブ世界では一日に五度、祈りの呼びかけが響きます。
スペインからモロッコへ、ジブラルタルを渡ったときに、
ああ、それは世界の変容。

ねえ、それは――

その昔、イスラームがスペインを支配していたことを覚えていますか。
イスラームは統治下のキリスト・ユダヤ教徒に対して存在を認めています。
でも、キリスト教徒は家や教会の外で儀式を行うことや、
布教を行うこと、そして教会の鐘を鳴らすことは許されていません。
レコンキスタによって国土の回復されたとき、鐘は。
どれだけも誇らかにまた明らかに、鳴り響いたことでしょう。

そしてまた。

私はイスラームの人々がスペインを、
その愛してやまなかったアンダルシアを、
離れゆくときの嘆きの言葉を幾つか知っています。

彼らは嘆き――

ああ、ねえ。
それでも大地は時を止めることはなかったのです。
コルドバにおいて西方世界の星であったメスキータは今はカテドラルとなり、
セビーリャにおいてイスラームの文様を踏まえながらモサラベ様式は咲き誇り、
グラナダにおいてアルハンブラには古い王宮に並び全盛スペインの宮殿があり、
歴史は留まることなく、彼らの去ったその上に、
透明な層を重ねていました。

ひとは、生まれることも死ぬことも、やめないようです。
古い糸杉さえ、もう彼らのことを覚えていない。


あとは、なにかな。
やっぱ、カテドラルかな。
えっとね、トレドの大聖堂が一番すき。
カテドラル内部では、ほとんど写真をとってない。
だって……出てからカメラのこと思い出すんだもん。

諸々の聖人たちを図案として絵画として、
彫刻として想念としてまた全てを統べる暗示として。
ねえ、どうしてこんなにまでも執拗に人々は刻みつづけたのでしょうか。
エル・グレコの描いた嘆きの聖母の光と影は、なにゆえに生まれたのでしょうか。

それは、そこにこそリアリテがあったからではないでしょうか。
世界の本質、世界の神話があったからではないでしょうか。

人々は聖母マリアの、あるいはマリア・マグダレーナの、
サン・セバスチャンのそれとも――イエス・キリストの、
その涙その血こそを、自分の涙、血よりもほんとうだと思わなかったでしょうか。
それこそがほんとうであり、自分自身を影だとさえ思わなかったでしょうか。

貧しかった聖母を金襴の衣装に包んで描くとき、
彼らは美徳や聖性というものを、そのように美しく輝く現世の富に比し、
また――現世の富とはそのような聖性のうつしえであると
暗黙のうちに了解しなかったでしょうか。

そしてまた、彼らは。
自らの内側の波うち渦巻きくらい生の感情を。
それら聖堂の人々によって価値付け判断し、名づけたのではなかったでしょうか。
苦しみや悲しみのあるとき、絶望のあるとき。
彼らは自分と同じような苦しみを舐めた聖人の足元に跪かなかったでしょうか。
世界を理解するための鍵として、聖人は幾たりあっても足りなかったでしょう。


あ、忘れちゃいけない、砂漠。
モロッコはサハラ、波打つ砂の群。
ほぼ一昼夜、砂ん中で遊んでいました。

砂は細かく乾いており、陽光によって白っぽくも赤茶けても見え。
季節は春、風は東南から吹きつのり。
そこに何があったでしょうか。
ああ、何も!

空漠とした天を切り取って砂丘はその空しい頭をもたげ、
音はないのです、ひとつも。
耳は痛いほど、目はめくらむほど。
手を伸ばし、天を抱こう。地を抱こう。
ああ、砂は私の腕から零れ落ちました。
砂の一粒一粒が無限の謎を抱いてそれを表す術を知らないようでした。
風は音もなく私の足跡を埋めてゆきました。
ああ、網のように広がっていた星々は消えてゆきました。
月は上り、いろのない濃淡の世界は広がってゆきました。
私の影ははっきりと砂の上に落ちました。

この世界は、絵解きするための手がかりを許さない。
解読するために人間的なものを導き入れることを許さない。
永劫の謎として横たわり――虚無によってしか癒されないものも、あるのです。





ああ、書きたいこと、いっぱい。
そのうちきっとまとめて、書くね。



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