渡会 宗一郎
夜、散歩をしていたら、うっかり墓場に出る。
どこをどう歩いたのかおぼえていない。
―――おじいさまのことを考えていたから。
おじいさまは間違ったことを言ってはおられない。
僕は医学を一生の道に選んだのだし、
――人を好きだというのは、一緒にいたいというのは、
多分、世間の常識とは、離れている。
おじいさまがわかっておられないのは、一つだけだ。
人をなくせば僕もない、ということ――それだけだ。
それでも、僕はおじいさまを傷つけない方法があればと、
そう、願うのだけれど――傷つけたくないと思いはするのだけれど。
墓場には、鴻巣くんがいた。久しぶりだった。
前に会ったのは――僕が酒場で犬の話をして怖がらせてしまった時だったから。
元気そうだった――と言っていいのだろうか。
外科医の目からすると、病院の外で会ってはいけない人のような
気もするのだが……。
彼は、ここにいることを、存在することを、生まれてきたことを、
誰かに許してほしいと思っているようだ。
誰かに――。この『誰か』というのが、けっして一人でなく、
けっして形のある、一人の人ではないということが、
彼の苦痛の原因ではないだろうか、と、思う。
彼はここにはいないのではないだろうか、と。
思う―――――――。
(メモに、ゆっくりと、ゆっくりと書き付けた文章)
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