あふりかくじらノート
あふりかくじら



 いつもの電車、地球の裏側。

ふっと意識が遠くに連れて行かれる瞬間がある。

たまたまi podの操作を間違えて、特に聴くつもりのなかった曲が流れてきたりするとき。終電近くの深夜の電車は変な空気がこもり、息苦しい。

遠くに見える東京湾の向こう側の灯りが海を明るくする。
そんないつもの風景なのに、アラニス・モリセットの歌声は11万キロ走ったわたしのカローラの中で響き、外を流れるのは、大きな赤っぽい岩がときどきごろりと現れる、ジンバブエの広い大地なのだ。


わたしにとって帰りたい場所はそこなのだ。


音楽はふいに、ひとを遠くへ連れて行ってしまう。
地球の裏側にでも、どこへでも。


ラジオを聴くのはそういう理由もある。
いつどんな曲が流れるのか、わからない。

そして、誰かが静かに喋っているその声。



いま読んでいる本。

石田千の文章は、ひとつひとつが絵みたいだ。丁寧に描かれた絵みたいだ。すてきな日本語だ。かなの使い方が憎い。




『月と菓子パン』

月と菓子パン (新潮文庫 い 86-1)

2008年03月11日(火)
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