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■ 柚子。
あなたも柚子が苦手であったことに、 わたしはやっと気づきました。 もう、二年以上も一緒に生活しているのに、 わたしは知りませんでした。
夕べの新年会。 大学時代の友人と一緒に、お世話になっている 教授のご自宅を訪ね、何十人もの学生や卒業生なんかが いる騒ぎのなかで、あなたはいつものようにわたしと一緒だった。 ぴったりとくっついて離れなかった。
あの教授が田舎の菜園で野菜を作っているという話は 何年も前から知っていたけれど、でもまさか、 夕べの手土産に頂戴するのがよりにもよって 柚子だなんて。 わたしの苦手な柚子だったなんて。
それをにこやかに受け取ったわたしに、 あなたはあきれてしまったのでしょうか。 わたしはそれを、大嫌いなそれを 無造作にコートのポケットにつっこんだ。 柚子の香りがついたコートを、 クリーニングに出そうとまで思いながら。
友人と二人で帰り道におしゃれなカフェにより、 とても華やかなケーキと紅茶をいただいた。 そのときわたしは、あなたを無視していました。 あなたはずっと、黙っていました。
帰り道の京葉線。 わたしが自分の駅で降りるとき、 ホームに電車が滑り込むのに合わせて わたしがだまって座席を立ち、扉の手前に立ったとき、 あなたをおいていってしまったような気がしたのです。 強く、後ろ髪をひかれるような気がしたのです。
ああ、でも、なんということでしょう。 わたしは、ほんの二三歩戻ってみればよかったのに、 たったそれだけのことであったのに、 振り向くこともなく、電車を下りてしまった。
あなたが、わたしから家出したということに気付かぬまま。
あなたも柚子が苦手であったことに、 わたしはやっと気づきました。
わたしの<Tu-Ka TK22>。 真っ赤で、スレンダーな美しいボディと ほれぼれするくらいシンプルな機能性。 ストラップをつけることさえ、わたしは嫌だった。 それくらいあなたを愛していたのに、 わたしはあなたの入っているポケットに 香り高い柚子を入れた。 無造作に入れた。 あなたは、家出した。
だから今日、あなたを迎えに行きます。 京葉線の終点、蘇我駅まで。
こんなわたしを、ゆるしてくれるだろうか。 わたしの携帯電話よ。
2005年01月09日(日)
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