あふりかくじらノート
あふりかくじら



 犬養道子、途中経過。

大学生のころ、師匠が言及した書がいくつかある。
彼は学生に「課題図書」を課すことなどぜったいに
しない人間なので、ときおりだしてくる書名は
いつも印象に残る。
犬養道子の『人間の大地』もそのうちの一冊だ。

こう毎日図書館にいるのにPCばかりに
向き合っているのもときに退屈で、
いつも余計な本を引っ張り出してきては
読みふけってしまうのである。

というわけで、『人間の大地』どころか、
分厚い『犬養道子自選集』全七巻を片っ端から
読んでしまうという暴挙に出た。
(でもまだ二巻目。ちなみに『人間の大地』は第三巻にある)

犬養道子がアメリカを目指した『お嬢さん放浪記』から
始まって、祖父の死(五・一五事件)からアフリカに
導かれるまで、その流れがすこしわかってきた。

まだ途中なので、一巻で印象に残ったことばを
ひとつだけ記す。

「人間は最も素朴なところで一つである。
 驚くばかりに一つである。しかし人の属する集団の
 ─国と呼ばれる集団の、生まれ育った生い立ちと、
 生い立ちを包んだ風土や事情、生い立ちながら身に着けた
 文化・社会の特殊性等々は、それぞれ独自なればこそ、
 それぞれの集団のそれぞれの人間は、
 またそれぞれに独自である。
 『理解』という単語の『理解』のしかたひとつ取っても、
 国それぞれで微妙な違いのあることを、
 私はあの皮椅子の上に坐っていまひとたび思い知った。
 素朴なところで一つながらに、歴史や文化の積み重なりが
 増せば増すほど、ある意味で互いの『理解』はより難しく
 なるのではあるまいか…(以下略)」

犬養道子『私のアメリカ』(フレイム・ハウス)より


2004年06月26日(土)
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