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Montgomery Book

第3章 (6) 犬の値打ち
 モードは自他ともに認める猫族であったとはいえ、犬も良き仲間として大切に描いている。モード自身は、生涯、自由な猫を友としたのだったが、愛情深いパートナー犬と暮らすことへのあこがれもあったのではないだろうか。長編のヒロインたちは、ほとんどが猫を友としていて、脇を固める重要な登場人物は、犬を友とすることが多い。

 しかし、犬という生きものは、猫より数倍手間がかかる。散歩をしたり洗ったり、しつけをしたり。猫みたいに自分で自分の生きかたを決めてくれない。コミュニケーションが豊富なぶん、人語をよく解し、やがては良くも悪くも飼い主そっくりになっていくし、ともに暮らす喜びも失う痛手も大きい。何か仕事が必要なところも人間にそっくり。

 「アンの夢の家」の老ジム船長がそうであったように、あまりにもすばらしい犬と暮らしてしまったら、二度と犬を飼う気になれないこともある。犬たちの瞳は、いつでもじっと人間を見つめ、澄みきっている。まるで人を映す鏡のように。そう、わが家にいるできの悪い、白い拾いっ子であっても。

 ところで、モードは自分が戌年生まれであることを知っていただろうか?1874年、明治7年生まれのモードは甲戌の生まれである。戌年生まれは頑固で忍耐強く、作家やクリエイターにも向いているとか。もし知っていたなら、猫年がないことについてどう思っていたのか聞いてみたいものだ。
 
 猫の項でも一部取り上げたが、モードが創造した忘れがたい犬たちをご紹介しよう。

* ドッグ・マンディ
 イングルサイドの犬といえば、黄色に黒のブチ犬、愛情深いマンディ。モードの子供時代、家にいた犬から名前をもらったらしいジップは、アンの長男ジェムが最初に飼った犬である。しかし、ジップをはじめ、幼いジェムが接した犬たちとは、「自分の犬が欲しい」という切なる願いにもかかわらず、よい主従関係を築けなかった。失意の後にジェムはマンディという忠犬とめぐり合う。マンディの忠犬ぶりは以前の犬たちを補って余りあった。ジェムが子どものころの月曜日、ウォルターがロビンソン・クルーソーを読んでいた日に家族の仲間入りをしたのでマンディと名付けられた。片目の上にもブチがあり、耳はずたずた。
 ジェムを主人と定めた忠犬マンディは、出征した主人の帰りを待って、忠犬ハチ公のように、毎日駅に通う。万事無関心で通っていたジョニー・ミードおじいさんは、男の子たちにいじめられていたマンディをかばって、駅にマンディの犬小屋を作ってくれた。老いてリューマチになりながら、4年間、マンディは駅に通い続ける。(「炉辺荘のアン」「アンの娘リラ」)

「わたしの経験では一匹だけ悲しみが原因で死んだ犬がありますが、これもそうではないかと思いますよ」と、獣医は父をわきへ連れていって話した。

「炉辺荘のアン」

* クリスマスの子犬
 アンの教師時代の同僚であった皮肉屋のカザリン・ブルックはクリスマスにグリーンゲイブルスに招待され、いやいやついて行く。クリスマス当日、アンからかわいい子犬をプレゼントされ、それが、いつもアンに対してバリケードを築いていた彼女の心をとかす決定的な一打となるのである。
 そういえば、ギルバートも「夢の家」時代にアンからゴードン・セッターの子犬をプレゼントされている。アンは子犬をプレゼントするのが好きだったのだろうか?(「アンの幸福」)

* ゴグとマゴグ
 一対の陶製の犬。サタンの指揮のもとに神に反逆した民の指導者の名にちなんでいるという。(「運命の紡ぎ車」より)アンシリーズで犬といえばこの一対の犬の名を思い浮かべるくらいで、彼らは何度も顔を出す、いわばモードの常連キャラクターである。アンが下宿していた「パティの家」で守護神として鎮座していた彼らは、後にアンがもらい受け、イングルサイド(炉辺荘)の守護神となる。緑色の斑点があり、百歳を越しているらしい。ゴグが右でマゴグが左。(「アンの愛情」)
 新婚旅行のイギリス訪問で、モードは幼いころから念願のゴグとマゴグを手に入れ、新居の炉辺に意気揚揚と飾っていた。もっとも、思ったとおりの犬はなかなか見つからず、多少妥協しての出会いだった。ゴグとマゴグは、もともとはパーク・コーナーにある祖父のモンゴメリの家にあったもので、モードはいつかきっと同じ種類の陶製の犬を手に入れたいと願っていたのである。(「運命の紡ぎ車」)

* ドッグ・マクギンティ(犬のマクギンティ)
 パットの幼馴染、ジングルことヒラリー・ゴードンの犬。小さくてものがなしげで人なつこく、頬は白、背と耳は金褐色。耳やしっぽは表情ゆたか。幼いジングルをして、「ぼくのことを思ってくれるのは、世界じゅうでマクギンティひとり」と言わしめる。マクギンティは、孤児と言ってもいい境遇のジングルが建築家になって都会へ出たあと、銀の森屋敷に引き取られ、パットのよき友となる。(「銀の森のパット」「パットお嬢さん」)

* ただの犬(Just Dog)
 銀の森屋敷の使用人、チリタックが連れて来た相棒。チリタックは、ただ「犬」と呼んでいるので、パットたちも皆「ただの犬」と呼ぶことにした。"振るところなど残っていないような尾"をしている。ときどき、癲癇の発作を起こす。牛にかけては大したもの。(「パットお嬢さん」)

* カーロ
 アンの新婚時代の隣人で、孤独な結婚生活を送る美女、レスリー・ムアが友としている番犬。もともとカーロは、頭を怪我して障害を負った乱暴者の夫、ディックの犬だった。「その愛情を全部ひとりじめにできるものをたった一つ持っているのはうれしいこと」だとレスリーはアンに話す。人間そっくりなところがある。(「アンの夢の家」)

 さて、「黄金の道」で異彩を放つキャラクター、ペッグ・ボウエンは毒舌と奇矯な風貌で、村中から魔女のように恐れらていれる独り暮らしの老女。確かにペッグのおまじないはよく効くのである。そのペッグが、教会のなかで言いたい放題を言ってのけた際、唯一ほめられたのは、良い犬を飼っている男である。

「わたしゃいつも、男の信仰心てのを、その男の飼ってる犬の種類ではかるんだ。」

ペッグ・ボウエン/「黄金の道」
参考文献
2001年08月05日(日)


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