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第3章 （3） アイランド
"あのなつかしい赤土の島"/L・M・モンゴメリ
カナダの東端にあるプリンス・エドワード島は、まさに地上では日本から最も遠い場所のひとつで、島全体がプリンス・エドワード・アイランド州を構成している。沿海州の宝石とも呼ばれる牧歌的な島。面積は5,670k�屬覇�本の愛媛県に例えられ、人口は14万人足らず（2000年）。州都はシャーロットタウン。気候は北海道に似ていて、冬は雪に閉ざされる。データ的にはそういう島なのだが、モンゴメリファンにとっては、いうに尽くせぬ長い付き合いの島である。行ったことがあろうと、なかろうと。
どういうわけでしょう、海があんなに青く、道路があんなに赤く、森の秘密の場所にはあんなにも羊歯が茂っていて、青々としていて、妖精が訪れるような優美さをたたえているなんて、忘れていました。そうなのです。そこには今なお妖精たちが住んでいるのです。
L・M・モンゴメリ/「モンゴメリ書簡集1」
プリンス・エドワード島は世界じゅうでいちばんきれいなところだって、いつも聞いていましたから、自分がそこに住んでいるところをよく想像していましたけれど、まさかほんとうにそうなるなんて夢にも思わなかったわ。想像していたことがほんとうになるって、うれしいことじゃない？
アン・シャーリー/「赤毛のアン」
私がまだ高校生だったころ、島の手がかりはとても少なかった。島の写真集も出ていなかったし、観光ツアーもなかった。今でこそグリーンゲイブルスのポップアップブックなども出ていて、作り上げても飾る場所がなくて箱にしまってあったり、インターネットで島のリアルタイムニュースや景色にも触れられる時代になった。しかし当時は、図書館の世界地理図鑑などを見ては、カナダ、プリンスエドワード島、赤毛のアンの島という具合にたどって、グリーンゲイブルスの写真を見つけるぐらいが関の山だったので、島の情報には飢えていた。
そのころ、篠崎書林からニュー・モンゴメリ・ブックスが刊行されるようになり、これまで読めなかった作品が次々と翻訳されていった。本に入っていたアンケートはがきに感想など書いていたからか、ある日、篠崎書林のKさんという方からDMと一緒に手書きのメッセージをいただいた。島の写真集撮影のためかと思うが、もうすぐP.E.I.へ行きますといったことが太い万年筆の文字で書かれていて、それを読むとスイッチが入って涙があふれてきた。
当時の私には、涙を流すほどそのことが遠いことに思われたのだ。これはひどくいい意味でこたえた。世の中にはこんなことができる人もいるのか。世の中もそう捨てたものではないかもしれない。実際のKさんの意図をはるか超えてその手紙は私に強いメッセージを与えてしまった。
その後、島の写真集は発行され、いつかKさんも他へ移られたようだが、最初の頃はきっと愛読者も少なくて、一読者に手紙を書く余裕もあったのだろう。現在モードの作品や関連書籍が日本でこれほど多彩に出版されている背景には、篠崎書林の地道な努力が（一読者としての印象であるが）あったことを忘れてはならないと思う。
「ここよりも美しいかしら──美しい筈があるかしらと思うわ」
と、アンはいつくしむような、うっとりとした目つきで周囲を見廻しながら呟いたが、その目は、たとえ異郷の星の下にいかにすぐれた国が存在しようとも、常に「故郷」を世界じゅうでもっとも美しい場所と、心得なければ気のすまぬ人々の目であった。
「アンの愛情」
P.E.I.は私にとって、思い込みが嵩じたパラレルワールドめいた存在になってしまっている。現実の島に行ったことはないのに、三月頃、私の部屋へ風が運んで来る、耕したばかりの土の湿った匂いは、島の香りを思い起こさせる。土の色はちがっても、その香りには「想像の余地」がある。家から車で2分のところには太平洋が広がっている。丘陵地ではないので家から海は見えないが、それでも手の届くところに海がある、という安心感に似た思いが胸に在るのは確かである。20代の頃のように、若く感性の豊かなうちに島へ行かなければという風にはもう思わないが、いつか機会が与えられれば、モードの生まれ、愛し、属していた「もうひとつの島」を訪れたい。
これはいちばんこっけいな話で、いちばんすてきな話でもあるのよ。四年前になくなって天国へ行ったジョージ・マクファーデンというおじいさんのことなの。天国へ行っても最初のうちは誰もプリンス・エドワード島の人が見つからなかったんですって。しばらくして大勢いることが分かったけれど、その人たちは鍵をかけた部屋に入れられていたのね。みんなプリンス・エドワード島に帰りたがってしょうがないからなんですって。
パット・ガーディナー/「銀の森のパット」
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