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2004年02月08日(日) 第26回 サルハンター

○ツギ野ツギ雄『サルハンター』

 200X年、日光の山奥で突然変異した猿が人間を襲う。人の言葉を繰り、凶暴化したオス猿は、登山に訪れた女の子たちを次々に犯す。恋人を猿に殺された本条猛巳は、復讐を誓い、サルハンターとなる。その数年後、ニホンザルに関するフィールドワークのために屋久島を訪れた甲本胎治は、そこで、やはり突然変異した猿たちに遭遇する。驚愕する甲本に向けて猿は告げる。

 今度は我々がヒトを飼う番だ

 壮絶な人間と猿のバトルを描き、もっともラジカルだといわれた90年代半ばの『週刊ヤングサンデー』で連載された、ツギ野ツギ雄の傑作が、ようやく単行本化された。というか、これがツギ野の唯一のコミックスである。
 
 ツギ野は、その初期短編にティーンエイジ・ファンクラブの『サーティーン』のジャケットや、クラブ・カルチャーなどを取り入れていたように、音楽に精通している面をみせたりしていたが、『サルハンター』には、今でいうならばガレージなロックン・ロールを髣髴とさせる、安っぽいが、しかし荒々しいほどの躍動感を溢れさせている。
 その荒々しさをもって伝えようとするものは、なにか?

 殺したいと思えば殺す!
 ヤリたいと思えばヤる! 君らは理想のタガもない、ただ欲望のままだっ!!
 ・・・アメリカで今、急増している親の子殺し・・・・・・あれは本来サルの習慣だ・・・・・・抑えきれなくなったヒトはサルに・・・サルはヒトに近づいてゆくのだっ!!


 ある生物学者は、人類に関して、そう言う。猿は、欲望のメタファーとして登場人物たちの目の前に現われる。じっさいに甲本は失望の果てに、凶暴化した猿たちのことを、こう評する。

 彼らは心ゆだねられるかわいい猿たちじゃないんだ!!
 こいつらは穢れた人間だ!!

 
 殺戮にレイプ。猿には倫理はなく、快楽に則って生きている、秩序は力によってのみ構築される。が、しかし、それは現代を生きる人間のダークサイドを映した鏡でもある。もしも人間が他人を思いやったりする気持ちを失くしてしまったとき、それでも人間だといえるのだろうか。甲本の言葉は、しかし猿を貶めているわけではない。なぜならば彼はそれまで、誰になんと言われようとも、猿のことを〈無垢な平和主義者〉として信じきっていたからである。だからこそ彼の言葉は、僕には次のように聞こえてくる。身勝手に振舞い、無思慮に他人を傷つけることは、この世のなかで、もっとも忌むべき行為でしかなく、断罪されなければならない。凶暴化した猿に立ち向かうサルハンターとは、つまり人間が人間であるためには、どんなことがあってもけっして捨ててはらない理性と、それをキープするための逞しさを象徴しているのである。
 
 と、ここまで書いておいてアレなのですが、『サルハンター』の魅力は、とにかくもうダイナックな場面展開である。ある意味では下手くそともいえる、パースの狂った絵がもたらす破壊力は凄まじい。全編に渡り、本気で馬鹿馬鹿しいほどのエネルギーが弾けている。ページをめくる度にアドレナリンがサージする。気に入らない奴はぶん殴れ。『サルハンター』は、魂を鼓舞させる、そういう激しい一撃となって読み手を刺激する。


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