オミズの花道
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『 理想が服を着ている男とラブラブな同伴・2 』
2004年01月16日(金)



で、映画を健全に観ていたのだが。

始まってすぐ私はちょっと後悔した。
自分が刃物に弱いのを思い出したのである。


何年か前、あまりにも過敏に刃物に反応する自分に、仕事上で差し障りが出た事がある。広告屋がカッターナイフを怖いのでは仕事にならない。ピンセットと定規とカッターナイフは広告屋の三種の神器であるというのに・・・・。

だが丁度その時期、今思うとこれも縁だと思うのだが、催眠関係の企画があり(医療関係の怪しくないやつ)その取材のついでに運良くあるカウンセラーに相談する事が出来た。

そしてその刃物恐怖症を克服すべく(無料で)催眠治療を受けたのだが、その段階で私のケースは『子連れ狼』というリアルな時代劇の影響だと言うのが判明したのだった。(会社の社長や上司に死ぬほどウケていたのは言うまでもない。)子供時代にあまり衝撃的な映像を見ると、こういう影響もあるのだな。

カウンセラーの話によると、昭和38年代からの世代は、38年代より前の世代と精神的にかなり違うと言う。これはテレビの普及の時期と合致している。
言われてみると確かに、未開の土地の人を日本国に連れて来て、一日中テレビを見せれば彼等の脳味噌はかなり混乱するだろうなと思う。まったく無意識の刷り込みと言うのは怖いものだ。


で、そんなこんなで治療を受けた私なのだが、最終的に種の保存としての反応は残してあるため、多少なりとも他人様より刃物には敏感だったりする。
(種の保存として、というのは女性である私が、深い暗示により『完全に刃物や血に無頓着になる』と、我が子の怪我に反応しなくなったりしてしまうから。)

その微妙な敏感さを持つ私は、恥ずかしながら太刀まわりのシーンでいちいち反応してしまうのだ。来るな〜?来るな〜?と思うときは瞬間的に目を細めて刺激を和らげたり出来るのだが、突然のシーンなどは防ぎようが無く、上映中私の身体は緊張が和らぐ事が無かった。


映画の仕上がりとしては申し分なくて(っていうか、ナベケンが主役じゃん、あれ。)楽しめたのだがとにかく刃物が怖い。シーンがリアルで重たいだけに、怖くて仕方が無かった。

最後の合戦のシーンは切なさも手伝って、怖くて淋しくて泣きたいような気分になった。・・・・と、そこで真田さんはそっと私の手を握ってくれたのだった。
ぎゅうっと握るのだが、宥めるようにポンポンと指で叩いてくれたり、とにかく色気の絡んだ握り方ではなく、安心感を与えるように接してくれる。

真田さんの手はガッシリと大きく指も長いので、身長の割に手の小さい私の手など、スッポリと彼の手の中に納まってしまう。小さい子供に戻ったようなそんな安心感と、自分が女性であることの嬉しさが怖さを消してくれて、映画は最後まで鑑賞することが出来たのだった。


場内を出た後、二人とも何だか照れくさくて・・・・表のエレベーターに出るまでは殆ど無言だった。時間を見るともう7時になっているので、真田さんが予約していてくれたレストランに向かい、適当に料理を注文し楽しく飲む。
わいわいと色んな話をして盛り上がったのだが、その間も彼の気配りは常人ではなく、かと思ったらとんでもないオオボケをカマしてくれたりして、とにかく楽しかった。

レストランから見える夜景は、とっても綺麗で。
真田さんが私に『どんな店がいいかな?』と尋ねた時、返した答えが『横に座れる店だったらどこでもいい』という大雑把なモノだったにも関わらず、彼はラブソファに座れて夜景の見えるイタリアン、を予約しておいてくれたのだ。
う〜ん、女性馴れしている言うか、何と言うか。

その辺りを突っ込むと、部下の教育係として接待のシュミレーションも組まないといけないから、こういう性分になったのだと言っていた。席を組む時に、徹底しておいて損な事は無い、と素に戻った顔で言う。
うんうん、そういうのはあるだろうなあ・・・・。大変だなあ・・・・。


レストランを出て店に向かう途中、真田さんが私の方を振り返って言う。

『また一緒にあちこち行こう。美術館にも博物館にも映画にもコンサートにも。
 なおちゃんとは趣味が凄く合うし、一緒にいると楽しい。
 黙ってても気にならないし、気を使わない。同じペースで時間を過ごせる。』

私がその言葉に答えようとすると、携帯電話がけたたましく間合いを破る。

誰だ、と思うと店からだった。
次長が『なおさん、まだなんですか?遅いですよ!』と神経質に叫ぶ。

『うるさいっ!!遅刻を取りたいんだったら勝手に取りやがれっ!
 いい感じなのに電話なんかしてくるんぢゃね〜よっ!!』


・・・・。
・・・・。


・・・・しまった。
今までイイ子にしてたのに。
大人しくしてたのに。


案の定、真田さんはクスクス笑っている。
ちくしょ〜次長めぇぇぇぇ。いぢめてやるぅぅぅぅ。

『ふふふ、ちょっとだけ早く歩こうか。あまり遅れると俺も入りづらいしね。』
そういってサクサク歩き出す彼。
私は立ち止まって呟く。
『もおお。こんな楽しいときにお仕事しなきゃいけないのね・・・・。』


お店に着くと普通のデートのような同伴に、女の子達からブーイングの嵐を喰らった。それだけ真田さんはモテるのだ。えへへ、いいでしょ〜と開き直る私。勿論これは照れ隠しである。

それから彼が乗る最終電車の時間まで楽しく過ごした。
途中で後輩も呼んでくれて合流し、お店的にも盛り上がって、そういう真田さんの気配りにも感謝した。お店に利益を齎す事によって、遅刻をフォローしてくれているのだ。

お見送りのエレベーターでは、何故か気を使われて二人っきり。
何事もなく健全に(笑)1階へ着く。


『じゃあまた電話するよ。』
『うん。私もお電話させて戴きますね。』

『う〜ん、俺が先にするよ。』
『え?私がお電話しちゃご都合が悪いですか?』

『いや、全然。でも俺が先にする。』
『・・・・負けず嫌いですか?』
『そう。じゃあね。』

手を振ってお見送り。
今日は本当に楽しかったなぁ・・・・。


上に上がって化粧直しをして他のテーブルに付こうとすると、私の携帯電話が鳴る。あれ、真田さんだ・・・・どうしたんだろう?


『もしもし?どうしたんですか?何か忘れました?』
『俺が先に電話するって言ったから。すぐなら負けないし。』

クスクス笑う私に、彼は続ける。
『それと、おやすみを言おうと思って。またあちこち行こうね。
 今日は本当に楽しかった。ありがとう。』

『ううん。私こそ。今日は本当にご馳走様でした。』


電話を切って、今度は彼が家に着くまで、自分の駅で寝過ごさないように、2時間後にメールを出す。
メールは私の方が先ですよ、と付け加えて。


負けず嫌いなところまで、同じな二人なのです。




あ、そうそう。
その後、うちの次長が私にいじめられたのは言うまでもありません。







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