オミズの花道
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『 男と女は解り合えない方が燃える 』
2003年12月09日(火)




久し振りに数学者と再会してお茶をした。


理系の人間と話をしていると実に面白い。
同じように向こうにとっては、私が面白くて仕方が無いらしい。


彼のような理系人間にとって私のような文系の『何が』面白いかと言うと、文系の人間が物事を理解する時に『皮膚感覚で理解する』という所が、そういう瞬間が動作や表情で見え隠れするのがたまらなくツボに入るようだ。
私は私で彼等のようにビジョンで物を見たり考えを構築する事が出来ないので、向うの発想を聞いているほうが面白い。

理系の彼等は映像で物事を発想し構築して行く。そういうのは私の世界にはない物で、新鮮で斬新で望んでも手の届かない物でもある。いや実に異星人。
・・・・だが私がこう言うと、この話を聞いている大概の人は不思議な顔をし、異を唱えてくる。理系の人こそ映像とは無縁なんじゃないの、と。

どうやらこの発想は、理系の人が扱う物が数字や方程式だから、=数字に強い、=紙の上の文字が浮かぶ、図式のようだ。
そこに画像は無いから、それ故に画像の発想は無いと思い込んでいる人が多い。


だが実の所、彼等が物事を理解する時に頭の中で動いているのは映像だ。

解りやすい例で、そろばんの上級者は頭の中にそろばんの画像があると述べれば御理解戴けるのではないかと思う。
頭の中で弾いたそろばんの画像が鮮明にあるから、何十桁もの計算の答えがスムーズに割り出せる。いやはやこんな脳内作業は怪物としか思えない。私なぞは隣の玉を弾いた途端、前の玉を忘れてしまうだろう。


で、面白いのは彼等がこうやって処理するのが、自分の中に流れ込んでくる世間的な知識だけではなく、自分の周りに在る人間関係の捉え方にも、この方式である所だ。

私の感覚で『何だかコイツとは気が合わないな』と直感で思い対処しようとするものを、彼等は画像で処理をし出てきたビジョンの答えから対応を決める。
X÷Y=Zで例えるなら、Xという出来事に対してまず先にZという結果を割り出し、残すべき大切なものは何か、過程において何を優先すべきか考えるらしい。

どうしてそういう物の考え方なのか良く解らないが、この方法だと確かに冷静になれたり怒らずに済むようになるだろうな、と思う。
そして表面にこういう部分がチラチラ覗くから、理系人間は冷たい、と俗に言われたりするのやも知れない。


私はたまたま物書きであり考え方が文系ではあるが、誤解の無いように申し上げると、文章を書くのはむしろ理系の人間のほうが長けていたりする。
ジャンルにもよるがノンフィクションや推理物、ミステリーなどはそれの極みであろう。

そういう者を目の当たりにする時、羨ましいと嫉妬にも似た感情が湧くのだが、彼等にすると私のように自分のマイナス面でさえ餌に出来る、波々と感情をぶちまける、そういうタイプの方が羨ましく思うらしく、双方が無いものねだりだったりするから面白い。

さて、文系の考え方と言うのは『 伝達 』が優先であり、自分が受けた感情・・・・例えば「何となく嫌」のような感情のうち、何となく、の部分を相手に解りやすい言葉で表現したり、書き記したりする考え方の事だ。
何も文学に携わっているから文系、物理学者だから理系、という単純なものではない。
ましてや両者が水と油、などという事も無い。

ただ上記のような考え方の相違により、意見が合わないことがある。
理系の人間は自分の選ぶ結果が見えているから余分なものはかえって足手まといだし、文系の人間は情緒を重んじ結果を優先せず余分なものを尊重するのだから、意見の相違はあって当たり前なのだろう。


私とこの数学者は、恐ろしいほどに言葉がだぶり、10話さなくとも2で通じる二人なので、周りから見れば『 最高に仲の良い二人 』なのだが、二人とも求めるもののベクトルが違うし、その事も通じてるので、二人で居ても色気の在る話には殆どならない。

ただ、彼はボソリと私に言う。
多分、私の事をあらゆる意味で理解してくれているのは君だけだろうな、と。
求めるものが違うのがこんなに悲しいと思った事は無い、と。

私は答える。
人という生き物は、それが良しにつけ悪しきにつけ変化を望み、己が変化に順応することに快楽を見出す生き物です。
我々のように相手のことが初期の頃から解りあえる、そんな関係は結局のところお互いを解り合えないのでしょう。
終末が見えているのだし、私は貴方のパートナーにはなれません。と。


少し西日が差し込んできた店内で、私は続ける。
貴方は、私が貴方を選択しない、という答えをもう持っているし、だから私に対しては無駄な努力もなさらないでしょう。
私は貴方がそういう人だと解っているから、お互いに築くものがもう無いのよ。
お互いが変化を望めない相手だと解っているから、努力もしないのね。
ただこうやって時々お茶を飲んだりするだけ。
・・・・それを人生において淋しいと思うなら、貴方を全然知らない人間と付き合うと良いと思います。


『・・・・奥様ともう一度ご結婚なさればベストなのに。』

私が言ったその言葉に、彼は目を剥き、笑いながら『良かった。』と言う。


『私は自分が理系だから人間が冷たいとか言われ続けてきたけれど、
 明日から堂々と世の中に向かって言えるよ。』

『そう、文系にも私のように冷たい人間はいるのよ。』
私も笑いながら答える。



男と女は難しいものだ。




食日記更新。






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