オミズの花道
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『 お客様の奥様 』
2003年11月04日(火)




先日、鮎の甘露煮を頂いた。
鮎と言っても、あの大きな鮎ではなく、小さい小ぶりの鮎だ。

この鮎、本来ならまず手に入らない。

取ってはならない種類の鮎だし、琵琶湖において漁師の網にかかってしまったものを、魚屋が知り合いなどに分けたりする手段しか取ることが出来ないのだ。
ご禁制までには行かないのだろうが、一生のうちに一回口にすることが出来るか出来ないか、という珍しい物ではある。

この小ささで子持ち。その為か縁起物でもあるこの鮎は、甘露煮段階の市価で1匹1000円、祇園の御茶屋に行けば1匹3000円が最低価格だと言うのだから、たまげた代物ではある。


『これ、うちの奥さんが友人の網元の娘さんから戴いたものを煮付けたんだよ。
 口汚しかもしれないけど、どうぞ。』
そう言って出された鮎は、ちゃんと南天の葉を添えた美しいものだった。

『うわ。美味しそう。今ここでちょっとつまんじゃっていい?』
そう言いながら黒服にその鮎を盛って来てもらう。
本来ならマナー違反なのかも知れないが、その場で感想を聞きたいのがプレゼントを持って来てくれた人への礼儀だと思うので、無理を通させて戴く。


いっただっきま〜す!・・・・と言って頭からかじった鮎は、何ともいえない鮎独特のスイカの香りが広がって、幸せな気分になった。
それにお世辞無く味付けが絶妙なのである。甘露煮なのに全然辛くない。
薄味って、川魚に有りなものだろうか?

そう言えばこれをくださったお客様は長年糖尿病を患っておられ、お店に来て戴いてもごく薄い水割りを飲まれたり、毎朝何キロも散歩をされたりして、健康管理に気を配っておられる。

奥様の愛だなあ、と思った。


1匹の鮎の中に、奥様の試行錯誤と努力が覗く。
病気を患っておられる旦那様のために、料理ひとつにも気を配る。

付き合いでお酒をたしなまれるのは仕方が無い事にせよ、普段はこうやって小さなこと、本当に小さなことでしかないのだろうが、キチンと詰めて家庭生活を営んでおられる。

これが愛情以外の何物だというのだろう。


1匹の鮎の中に御夫婦の歴史と、お二人のお互いを思い遣る心が覗く。
旦那様も奥様を大切にしているから、奥様は旦那様のために、こんな美味しい鮎を作ることが出来るのだ。

そう思うと感動して涙ぐんでしまった。
社長、何時までも元気でいなきゃ。奥様の為にね。


私もこんな素敵な女性になりたいなと思う。

1匹の鮎で、自分の愛情を表せられるような。







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