ケイケイの映画日記
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2024年03月17日(日) 「ゴールドボーイ」




面白く観ました。作品のキャラの背景もそれなりに咀嚼出来たし。なのに、なんだろう、この飲み込んだ錠剤が、喉の辺りに引っ掛かっている感じは。決して散漫ではないけれど、色々詰め込み過ぎて、描き込みが少し足りないと感じていました。それが、敬愛する長年の映画友達の方と、少しだけお話しして、傍と気が付きました。視点を変えれば、描き込み不足ではなく、膨大な原作を129分の尺に、必死で形を成すように、上手くまとめたのじゃなかろうか?です。監督は金子修介。

沖縄の実業家の一家に入り婿している東昇(岡田将生)。その財産と会社の乗っ取りを目論んで、義理の両親を崖から突き落とし、殺害します。それを偶然録画していた、朝陽(羽村仁成)、夏月(星乃あんな)、浩(前出燿志)の三人の中学生。それぞれが複雑な家庭環境に苦悩しており、朝陽はこれをネタに、昇を強請ろうと言い出します。

原作は中国の小説で、ドラマも好評だそうです。沖縄に場所を据えたのは、子供たちと昇らの貧富の差や、警察の腐敗をより強調したかったからかと思いました。沖縄の人、ごめんなさい。あくまで私の沖縄のイメージです。それにしては、あまり沖縄を強く感じる風景ではなかったですが。東家の一人娘で昇の妻である静(松井玲奈)は、従兄で刑事の巌(江口洋介)に、自分が死んだら昇を疑えと言います。

まぁその通りになるわけですが、死因は家名を汚すため公表出来ない件は、無理くり許そう。だけど、公表できないからと、捜査を打ち切るのはどうなんだろう?極秘で捜査は続けられると思います。「沖縄だから許して」は、違う気がします。

朝陽の両親は父の一平(北村一輝)の不倫略奪婚により離婚しており、母の香(黒木華)が、女手一つで育てています。朝日の教育費を稼ぐため、掛け持ちで仕事をして、夜勤もこなす香。いやいや、待て。夫有責で離婚でしょう?
一平は会社を経営しており、裕福な様子。それなりの慰謝料や養育費は払ってしかるべしです。何故そんなに貧乏なの?一平は朝陽に「進学費用は心配しなくていいから」と言いますが、何当たり前の事を、今更言ってんの?しかし現実は、元妻は働きづめ。そしてたった一人の実子である朝陽(略奪ゴミ女は、女子を連れ子にして再婚)は、母の旧姓を名乗っているので、戸籍も抜けているのでしょう。跡継ぎとして、養育は元妻でも、戸籍はそのままにして、将来会社は継がしたいのでは?この辺りの描写は、とても雑に思いました。

こういう細部は、バッサリ刈り取って、現在母子家庭でお金に窮しているとだけ描いても、良かった気がします。余計な事で気が削がれました。両親の離婚は、朝陽に影を落とす事象なので、本筋に絡む事だけ描けば良かったと思います。もちろん、連れ子の件は忘れずに。

と、色々苦言を書きましたが、その他は匂わせ方が上手かったです。例えば、血の繋がらない兄妹である浩と夏月ですが、罪を問われるだろう夏月と共に浩が逃げたのは、彼女が好きだったからでしょう。恋が芽生え始めの朝陽と夏月を、そっと見守るような様子が切なかったです。なさぬ仲の娘に手を出すゴミカスの浩の父親、「お母さん、(義理の)お父さんが死んだら、また一人になる」の夏月の心配も、夏月の母親の、親としての脆弱さを感じ、この兄妹の家庭環境の過酷さは、これらの描写だけで充分に感じました。

静の不倫相手を見せるのも、素行の良からぬお嬢様だと感じさせます。だから親は、離婚話も止めたのでしょう。家名を守るには、頭脳明晰、眉目秀麗な婿殿が必要だったんですね。この時「この人はね、心が無いのよ!」と静は叫びます。心が無いというのは、「良心」が無いという意味です。サイコパスの特徴です。やはり妻です。夫の内面を感じていたののでしょう。

崖から突き落とす時、あら、あら〜!みたいな間合いで、淡々と突き落として、呆気に取られました。カジュアルに殺人を犯すのです。憎しみも恐れもなく、何の感情も無く殺す。その他の殺人場面も、流血があってもほぼ即死。阿鼻叫喚には程遠く、それがとても怖い。

そして咄嗟の嘘がとにかく上手い。人格障害系の人も、息を吐くように嘘を付きますが、第三者が加わると、たちまち嘘が露呈する。そう思うとサイコパスの嘘は、誰にも納得させてしまう。とにかく嘘が鮮やかで、周囲は翻弄されるだろうと思います。IQの高さがうかがえる昇のサイコパスぶりは、後々合わせ鏡が出てきて、成る程、と答え合わせが出来る作りです。

子供たちの方が主役みたいの声も聞こえますが、私はこの作品、岡田将生の出色の演技で成功したと思っています。とにかく「美しい」のです。イケメン、ハンサム、男前。男性の容姿を褒める言葉は数々あれど、美しい男性は希少です。元々綺麗な顔立ちだとは思っていましたが、今回は酷薄で背徳的、凄みのある美貌が、サイコパスの役柄に映えるの何の。狂気じみた笑顔もぞくぞくしたし、睨み顔は苦み走っている。ヴィスコンティの映画に放り込まれても、違和感ないような美貌で、本当に惚れ惚れしました。

子供たち三人も、それぞれとても頑張っています。特に私が目を引いたのは、当初の弱々しさから、母性にも似た愛情を朝陽に注ぐ夏月役の星乃あんな。まだほんの子供なんですが、作品の中で、夏月が成長していくのが、手に届くように解りました。ラスト近くに昇のマンションに入る前に、一旦振り返るショットが秀逸。これから始まる事が何か、全て受け入れていたのでしょうね。

この四人に比べたら、名のある俳優さんたちが、とにかく凡庸で、ほぼ記号のようでした。でもそれは、四人を引き立たせるために、わざとそう演出した気がします。その凡庸の中で一人浮かぶのが、江口洋介の巌。IQの高い冷酷なサイコパス合戦の中、叩き上げのスキルと勘という、目に見えない物を武器に戦う様子は、得体の知れないサイコパスを、既視可させる存在だったと思います。

三人の子供たちは13歳から14歳。罪になるのは14歳からです。最近、小学生が水族館のメダルを純金だと嘘をついて同級生からお金を騙し取ったり、中学生が美人局したり、世も末じゃと思う事が頻発しています。もう犯罪の年齢は、10歳に下げてもいいんじゃないかな?

事の善悪は、10歳頃には、ほぼついているはず。なので14歳では感受性や想像力、他者への傷みなど感じるための矯正は、間に合わないと思います。この作品を観て、この事を強く思いました。子供の数が減る中、犯罪年齢を適切に下げる事は、犯罪からの抑制力ともなり、子供たちの人生を守る事にもなると思います。

昇は「このクソガキが!大人舐めるなよ!」と、子供たちに言います。昇が言うと、あんたが言うなになりますが、これは大人が子供たちにきっぱりと、言わなくちゃいけないセリフだと思います。映画も面白かったですが、ドラマもとても面白いとか。私が疑問に感じた箇所がどう描かれているのか、確かめてみたいと思います。




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