ケイケイの映画日記
目次過去未来


2023年11月03日(金) 「唄う六人の女」




これも予告編だけを観て鑑賞。ミステリーの領域より、主人公萱島(竹野内豊)にまつわるお話が気に入ったので、私は面白く観ました。監督は石橋義正。

両親の離婚のため、幼い頃に父(大西信満)と別れて育った写真家の萱島。その父が亡くなり、辺鄙な山奥の実家へ戻ります。家は不動産屋の宇和島(山田孝之)に売ることに。駅まで宇和島に送って貰っていた萱島は、謎の女の出現で、事故に遭います。気が付くと、そこは6人の女が出入りする家で、二人は共に監禁されます。

夢か現か幻か。この女たちは、森の精霊ですね。売り払った山には、とある秘密があって、それがため、萱島の父は断固として土地を売らなかった。という内容を、幻想的に描いていきます。

きっと母親に悪口ばっかり言われて育ったんでしょうね。久々の生家に帰ると、父と別れる前の、幼かった自分の痕跡があちこちにあって、萱島は自分が記憶を封印していたのを、感じます。父とはどういう人だったのか?萱島が感傷的になりつつ、探ろうとする姿が描かれます。ここがね、私は心を掴まれました。人によっては、平凡な導入かもしれませんが、私は竹野内豊、好きなのね。どこが好きかというと、低体温で感情の起伏が少ないところ(笑)。そして軽薄ではない。他は顔が好き(身も蓋も無い理由)。私の好きな彼の個性にあっていて、静々深々、萱島の感情が伝わってきました。

この精霊たちも気に入りました。個性の描き分けが出来ていて、私が特に気に入ったのが、人魚のように自在に水の中を踊る精霊(アオイヤマダ)。若々しい官能性があって、もっと観ていたかったです。水川あさみも、成熟した色香を漂わし、萱島を惑わしますが、彼にはかすみ(武田玲奈)という、公私共の若いパートナーがいます。寸でのところで思い留まる、萱島の誠意も気に入りました。

この手の寓話は、精霊が男性の精を吸い尽くすみたいな描写に成りがちですが、そうあってはならん理由がちゃんとありまして。萱島には、心身共に充実して、過去を思い出して欲しかったんですよ、彼女たちは。そのために、手荒い教育的指導をしていたわけで。その辺も澱みがない。

繊細に過去を紡いで、自身もどんどんスピリチュアルになる萱島に対して、人品骨柄賤しく、どこまでもとことん悪漢のままの宇和島。そういえば、両方無精ひげなんですが、山田孝之は汚らしく見えたのは、役造りには成功だったのかな?宇和島は、「俺とあんた(萱島)は似ていると思っていたが、あんたは偽善者だ」と言います。このセリフを入れるなら、どこが似ていたのか、その描写は欲しかったです。そして、萱島は偽善者ではありません。

人には見えない物が見えた父。同じ物が見えた息子に、自分の意思を託すのは、自然な事です。父は片時も息子を忘れた事はなかったと思います。その事を理解した息子の行動も、これまた自然の成り行きだなと思います。純粋さを受け継いだんですね。

ラストの成り行きは、仲介業者の松根(竹中直人)が、「あんたみたいに若い女に手を出したから、(萱島は)罰が当たって事故にあったんだろう」の言葉に対する、かすみのアンチテーゼだと思う。萱島は、若くて美しく賢いかすみが、自分の人生を捧げても良いくらい、素晴らしい人だったんでしょう。彼女をそれを立証したくて、受け継いだのだと思います。

最後に白川和子!「春画先生」でも元気な姿を見せてくれましたが、何と75歳なんですね。ちゃんと田舎のお婆さんに見えるのに、とっても小綺麗で感激しました。さすが元ロマポの女王。だいぶ前なんですが、CSで何気なく昔の「必殺」シリーズを観ていたら、そうだな、30半ばくらいの彼女が出演していてね、勿論濡れ場あり。それが裸は見せないのに、喘ぎ声が物凄くて、超エロエロ(笑)。男の人は、こんなの聞いたら、その晩はタダでは眠れないのじゃないかと思う程。それ以来、この人を見る度に、女の鑑だと思って背筋を伸ばしています(笑)。

土俗的で寓話的に描かれる中、父子の愛情に環境問題も上手く絡めていました。プロデューサーの山田孝之が、あんな唾棄すべき男を演じて、竹野内豊に花を持たせているのも漢で、好感が持てました。感情が精霊たちに抱擁される感覚がして、私は好きな作品です。


ケイケイ |MAILHomePage