ケイケイの映画日記
目次過去未来


2023年10月20日(金) 「春画先生」




いやー、想像と全然違ったけど、とても面白かったです。タイトルの春画と同じく、大らかで可笑しみに溢れたエロティシズムが漂う作品。私は大好きです。監督は塩田明彦。

春画先生こと芳賀(内野聖陽)は、いきつけのカフェでウェイトレスをしている弓子(北香那)に、春画の勉強をしてみないか?と声をかけます。変わり者で有名な芳賀に警戒しながらも、春画に興味を惹かれた弓子は、芳賀に弟子入り。風雅さと人間臭さが共存した春画の世界に、どんどんのめり込む弓子。そして芳賀にも惹かれていきます。芳賀の編集者の辻村(柄本佑)と共に、春画研究の旅に出た三人は、そこで芳賀の亡くなった妻の伊都(安達祐実)の姉、一葉(安達祐実・二役)と出会います。

先ずは春画の解説から。なるほど、こういう風に鑑賞するのね。勉強になりました。でも私の予想では、もっともっと春画が出てきて、その勉強を通じて、弓子が官能的で素敵なレディになるお話しなのかと予想していたら、まぁそこは半分当たっていました。

弓子に惹かれながら、亡くなった伊都が忘れられない芳賀。妻亡き後、女断ちしている彼は、何と辻村に弓子を抱かせて、その喘ぎ声を芳賀にライブ配信。口惜しさとスケベ心で身悶えしているんでしょうね(笑)。面倒臭い男だな。マゾっ気があるんだと思いましたが、これは軽いジョブでありました。

生と性に纏わる人生の詫び寂びを語る芳賀の姿は、教養豊かで高潔な人柄が香る。だか騙されちゃいけない。これは人としての芳賀であって、男としての芳賀ではないのよね。このお話は、ソウルメイトたる妻を亡くした男が、値千金の若い女性を見つけて、一つ一つ階段を上るように自分好みになって貰うお話しなのでした。

いやーでもねー、そんなの直接対峙すりゃいいよね、こんなまだるっこしい事しなくても。多分「人」としての自分には自信があっても、「男」としての自分には、自信がないのだね。誰よりも春画に造詣が深くとも、現実では男女の機微に上手く立ち回れないなんて、世の中には良くある事です。それと、自分の性癖に、自分で怖気づいてしまうのでしょうね。変態の哀しみだなぁ。

勝ち気で愛らしく、一途な弓子。抱いてくれない芳賀に、自分が学生時代に若気の至りで、半年で離婚した話をします。自分との関係を重く考えないでと添えながら。子供のいないバツイチ女性は、結婚という呪縛から、開放されるのだなぁと感じ入りました。年の差はあっても、没(ボツ)イチの芳賀とバツイチの弓子は、男女としては対等なのだと思いました。

この作品、このバツイチ宣言の他も、気の利いた演出が盛沢山。辻村はTバックのブリーフ姿がとても印象的で、何故にTバック?と、とても謎でした。それは芳賀が辻村に当て馬役を依頼した事に通じていたのだと判った時、思わずクスクス。一葉出現で、嫉妬に身を焦がす弓子を表現するのは、朝日に透けた、真っ白なシーツ越しからの、バックショットの全裸の雄たけび。清廉なエロティシズムが香ります。セックスが媒介しても、男女の友情を築ける弓子と辻村の関係も、清々しいです。

「君の怖い顔、私だけに見せて欲しい」と言えるのに、弓子を抱けない芳賀は、女性には初心なのでしょうね。こんな面倒臭い男に、辻村も一葉も協力しちゃって、これこそ人徳のなせる業かも。お互いが身も心も尽くしてこそ、本物の性が得られると、女性には初心で変態の芳賀が教えてくれます。生には性=愛が必要なんだと、教えてくれる作品。





ケイケイ |MAILHomePage