ケイケイの映画日記
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2023年10月06日(金) 「バッド・ランズ」




以前の勤め先の西成が舞台なので、とても楽しみにしていました。ところどころ、違うなぁとか、説明不足に感じるところがありますが、相変わらずの安藤サクラの名演技が、不満を払拭してくれた感があります。監督は原田真人。

西成で特殊詐欺の受け子のリーダー(通称三塁コーチ)をしているネリ(安藤サクラ)。高城(生瀬勝久)の下で働いています。ある日血の繋がらない弟ジョー(山田涼介)が刑務所から出所。面倒をみるネリですが、ヤクザとトラブルを起こし、二人は警察も含め、幾重にも追われる立場となります。

冒頭、特殊詐欺の鮮やかな手口の裏側が描かれます。ただ、私は韓国映画で同じ特殊詐欺を描いた「声 影なき犯罪者」を観ており、綿密に張り巡らされた”嘘”の扱い方は、「声」の方に軍配が。そのため、そこそこ上手いの感想ですが、初めてこの手の作品を観る人なら、見入ってしまうと思います。

ネリの役割の三塁コーチは、受け子と行動を共にし、先を察知して誘導するという物。これは初見で、この描写で、ネリの頭脳明晰さや、底辺の人々への情け深い人柄も感じ取れます。

気になったのは、指定場所は難波のロイヤルクラシック辺りのはずが、「あべチカ」の入り口が見えたり、淀屋橋の中央公会堂が映っていた事。地理的に謎で、移動するなら、セリフに入れないと。この辺は雑に感じました。

街も今の西成ではないな。アジトのような、こじゃれたビリヤード場兼カフェもないな。老いた受け子たちが住んでいるボロアパートも、今では生活保護者向けの、小綺麗なアパートになっています。ドヤも同じく。ロケは西成ではなく滋賀県だそうで、ここは世間に想像される西成を描いているのでしょう。上り立つ匂いは違いますが、まぁいいかな?

受け子の人たちが、極道、インテリ、ボクサー等、多彩な「成れの果て感」が出ていたのは、良かったです。西成に流れ着いた人が、「西成に沈む」と表現された事がありました。底辺だけではない、哀愁と共に、どんな境涯でも生きていく、逞しさも感じさせ、良かったです。。

前半の軽妙な背景の見せ方に比べて、ジョーが出て来てからの展開は、トーンダウン。娑婆に出て来たばっかりなのに、ちっとも改心していない様子のジョーは、自分はサイコパスと言いますが、多分違う。きちんと躾て貰える生い立ちではなかったのでしょう。賭博に手を出し借金。強盗に入ったりと、手をつけられない子ですが、憎めぬ愛嬌もあります。この辺は山田涼介が好演していました。

不満は、何故そうなったか?という点を、掘り下げずにさらっと流している事。ネリと高城には秘密があり、二方愛憎に満ちた想いがある。「お前には俺の跡を継がせるよう、上に伝えるつもりや」は、高城の本当の立ち位置を知れば、ネリの賢さに目を付けた以上に、高城の愛を感じるのですが、では何故ネリとネリの母を窮地に追いやったのか?その辺がセリフにもない。私はネリの母が多情だったのかと想像しましたが、う〜ん。

執拗にネリを追いかける胡屋(渕上泰史)なる投資家の存在も謎。女を凌辱する性癖を持つサディストですが、あれだけ美女に囲まれながら、何故ネリだけに執着するのか?歪でも愛があるとか、または「夕方のおともだち」ではないですが、究極に肌が合うとか、何かあるよね?それが全く無いのでなー、うん。タダの胡散臭い金持ちの変態に見えてしまうのよ。今まで女を冷酷に棄てたことはあっても、自分から逃げた女はいなかったから、かな?どっちにしろ、ゴミカスですが(笑)

追いつ追われつの展開に、フェイントや謎解きを挟みながら、この辺の展開は澱みがなく、面白く観られます。

でも面白く観られた一番の要因は、出演者の個性や存在感が際立っていたから。安藤サクラは、ここ数作母親役が続いていましたが、今回も年上の受け子や弟の「母」として、何と慈悲深く滋味深い事よ。やさぐれようが、犯罪に手を染めようが、どんな時も「身内」となった人々への情けを忘れない姿は、軽々と血縁を凌駕しています。それは苦渋に満ちた生い立ちからの、彼女の信念なのでしょう。安藤サクラ、山田涼介共々、大阪弁が上手くて感激!ほぼ完璧でした。

飄々として憎々しく、冷血な高城を演じた生瀬勝久も良かったし、展開の鍵を握る曼荼羅(宇崎竜童)の重厚な存在感も出色です。

クライムサスペンスとしては珍しい、ラストは馳走感と爽快感に包まれていました。先の読めない意外性の多い展開も気が利いています。上記私が引っ掛かった事がクリアされていたら、傑作サスペンスだったかなぁと、ちと残念です。





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