ケイケイの映画日記
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2023年04月07日(金) 「主戦場」(Amazonプライム)




今月初めからAmazonプライムで観られるようになったと読み、早速鑑賞。次から次への膨大な情報量に、頭が付いて行かない瞬間もありましたが、期待以上に大変面白かったです。最後に見せる、監督の主義主張が圧巻でした。国が違えど、同じような生い立ちの私には、胸が熱くなるものがありました。監督は日系アメリカ人のミキ・デザキ。

センシティブな内容なので、先ずは私の立ち位置を書きます。私は日本生まれの在日韓国人から、4年前に家族ごと日本に帰化して、韓国系日本人となりました。李明博の「天皇陛下は土下座しろ」には心底怒り、心から恥ずかしく思い、それ以外でも韓国の行き過ぎた反日政策には閉口していました。半面、芸能や若い子たちの文化が日本で盛んに受け入れられ、それを嬉しく思い、嫌韓の心無い言葉には、憤りを感じる自分もいます。私は韓国人ではなく、日本も韓国も愛する、日本に帰化した「日本人」です。政治は表層的+αくらいの理解力で、賢くはありませんが、バカでもありません。以下はそういう者が書く感想です。

監督の主張は、「慰安婦肯定」であるのは知っていました。まずドキュメンタリーとしての構成が上手い。名が知られた人、そうでない人、たくさんの否定派・肯定派がインタビューに答えています。人種は日本人・韓国人・アメリカ人。1/3は、平等に主張を取り上げていました。ふむふむ。

私は歴史というものに真実は無く、あるのは事実だと思っています。これが真実だ!には主観が混じり、事実は客観的証拠の積み重ねだからです。これを痛く感じ、胸に刻んだのは、「ハンナ・アーレント」を観た時からです。

否定派は、慰安婦募集の新聞広告や、高額のお金が入金された通帳や、物的証拠や状況証拠が盛沢山です。なので、「強制連行された慰安婦」ではなく、「売春婦」であるとの主張です。その証拠を、逐一肯定派が論破する。上記の件では、新聞広告を目にするのは、主に女衒だと言う肯定派の主張には、頷きました。だって慰安婦に連れて行かれる層は、文盲だもの。高額の入金通帳も、外地に行かされた女性のもので、そこは貨幣価値が暴落して、お金は紙切れ同然だったと反論。お金は毎月渡されるのではなく、通帳に入金だけでした。

確かね、「サンダカン八番娼館」で、ヒロインの高橋洋子が、何軒かの鞍替えで、最後の雇い主だった水の江瀧子から、形見分け的にたくさん宝石を貰ったシーンがありました。内地に帰り、自分を蔑む周囲の冷たさから自暴自棄になり、宴席で宝石を投げまくっていたシーンは、貨幣に価値がないから、親心で宝石を渡したいう意味だったのかと、思い当たります。当時まだ子供だったので、自暴自棄しか解らなかったですが、違う?

そしてびっくりしたのが、慰安婦には白人もいたとの事。しかし欧米からの圧力で、白人慰安婦は抗議で即解放。うーん、「ハーツ&マインド」で、「黄色人種の命は、白人より軽い」と言った、学者=欧米人の思考と、同じ穴の狢じゃないかと苦々しい。

そして終盤に入り、監督が怒涛の攻撃に入ります。先ずは日砂恵ケネディ氏という存じない方が登場。これが隠し玉と言うか最終兵器と言うか。彼女は桜井よし子氏の後継者と期待されたナショナリストでしたが、あることから、転び伴天連ならぬ、転びナショナリストなりました。ここでの爆弾発言に唖然。でもよくよく考えたら、それ程びっくりする事でもないかと(笑)。ケネディ氏の「ナショナリストを辞めて、心が自由になった」との言葉は、深くて重い。

そして否定派のお歴々の数々の言葉がもう。

「フェミニズムは不細工な女が誰も寄り付かないから始めた事」
→はっ????

「アメリカでは、不細工な女とセックスする時は紙袋を頭に被せる。だから慰安婦像には紙袋を被せた」←何という侮辱!!!!

「韓国は日本が戦争に勝ったから、嫉妬しているんですよ」←えぇぇぇぇ!日本は敗戦国ですよ。何言ってんの????この返答はあんまりなので、インタビュアーが「勝った?」と聞きなおしていましたが、「はい、勝ちました」と答えていてね、本当に耳を疑いました。

全部別の人の発言です。この前のシーンで(いや、後かな?)、日本兵として戦争に行ったと言う90代の男性は、「当時は女性は人間ではなかったんです。」と証言されていました。上記の方々は、戦争前の状況から戦後80年近く経っているのに、全く思考がアップデートされていないのが判る。

いやはや、こんな暴言・暴論がが出てくるとはね。事は慰安婦問題だけではありません。監督は慰安婦問題を通じて、人権の尊重を描きたかったんだなと確信しました。膨大なインタビューは、まさしく証言という事実の積み重ねで、言った言わないの水掛け論は存在せず。

裁判でも、ケント・ギルバート氏など数人の否定派が「自主製作作品だと聞いていた。商業作品として公開するとは聞いていない」との訴えを、製作者側は、「公開することもあると事前に伝えていた」と反論。でもその反論が無くとも、裁判は勝ったんじゃないかなぁ。否定派の見知った人は、いつもの論法で答えていて、主張にブレはなかったですもん。映画とは、例えドキュメンタリーでも、作り手の主張は入るものですから。例え自主製作でもね。それを教えてくれたのは、マイケル・ムーアです。

しかし映画はここで終わらず、もっともっと壮大な展開に。岸信介まで出てくる。私はこの人がA級戦犯で巣鴨の刑務所に入っていて、東条英機の部下だったとは知りませんでした。これは幅広く認識されているんですかね?事は人権問題に留まらず、如何に右傾化する政治は危ないか?とのメッセージでした。

安倍氏の死去から明るみに出て来た、旧統一教会と自民党との癒着。表看板では嫌韓を装い、裏では韓国本国やその他の国でもカルト宗教扱いの教団に、にこやかに祝辞をする安倍氏やその他の自民党の政治家たち。自民党を支持して、甘い汁を吸っていたならいざ知らず、そうではない支持者たちの声が聞かれないのは、どうしてかしら?私が当事者なら、裏切られたと思います。日砂恵ケネディ氏の勇気と胆力は、高潔だと思う。

監督は日系アメリカ人。私は韓国系日本人。私たちのように、血筋とは違う国籍や永住権を持って、その国で根を生やし生きている人は、たくさんいます。そして最大公約数の人は、両国とも愛していると思う。監督は右傾化の進む日本を案じて、この作品を作ったのではないでしょうか?反日映画との評判は、全く持って遺憾に思います。

この作品の公開は四年前。安倍氏死去の後、数々の政治絡みの検挙が出ているのは、偶然ではないはず。コロナ禍で誤魔化されていた現状が明るみに出て、国の状態も少しずつ変わりつつある今、感情論ではなく、この作品を正しく理解する人は、四年前より増えると思います。

さて映画を観た私の見解ですが、強制連行された従軍慰安婦は存在したと思います。劇中出てきましたが、連行と言うと、腰縄つけて夜中に連れて行かれて、と思われがちですが、騙されて連れて行かれても、連行になるのだとか。そして強制。意に添わぬ事を無理やりさせられるのは、強制であるとの事です。これが理由です。

昨年95歳で亡くなった父は、日本兵として出征しています。日本へは数え年の15で来ました。「慰安婦は強制で連れていかれたんではない。みんな知ってて日本へ行ったんや」と言っていました。姑は生きていれば100歳。戦争当時は日本に出稼ぎに来ている舅宅で、夫の帰りを待っていました。「日本に仕事があると言われ、連れて行かれた女の人は、みんな騙されてパンパン(すみません、すみません。原文ママ)にされたと言われていた」と、生前話していました。今思えば、もっと詳しく聞いておけば良かったなぁ。

杉田水脈氏が、またしても「幾らでも嘘をつく」と言っていました。この人、このセリフが好きやな(笑)。同性が言うなんてと、とても嫌悪感のある言葉だと、最後に付け加えておきます。色んな感想があって良い問題です。たくさんの感想が読みたい作品です。


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