ケイケイの映画日記
目次過去未来


2023年02月11日(土) 「仕掛人・藤枝梅安」




期待以上、とても良かったです!私の年代だと、梅安はドラマの「必殺!仕掛人」で梅安を演じた、緒形拳の印象が深いです。今回の梅安役のトヨエツがインタビューで同じ事を言っていて、そこを引き受ける時に躊躇したと語っていたので、やはり私と同じ年なんだなと、改めて納得。殺し屋なのに勧善懲悪的だった、快活な緒形梅安とは真逆の、常に死の匂いが立ち込める梅安を、今回ニヒルに好演しており、トヨエツ梅安ありきの作品です。監督は河毛俊作。

腕の良い鍼医者として、患者の信頼を得ている藤枝梅安(豊川悦司)。実は裏家業の元締めから金をもらって殺しを実行する“仕掛人”という裏の顔があります。同じ稼業の彦次郎(片岡愛之助)とは馬が合い、お互い心を許せる相手です。元締めの羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から依頼された仕事は、料理屋・万七の内儀おみの(天海祐希)の殺し。別の元締めから、三年前に万七の先代の内儀の殺しを請け負っていた梅安は、不審を覚えます。内偵のため、万七の仲居おもん(菅野美穂)と深い仲になる梅安。常連客となり、おみのの挨拶を受けた梅安は、おみのの顔を観て、息をのみます。

この作品は、池波正太郎生誕100周年記念かつ、時代劇専門チャンネル25周年記念作品です。時代劇専門チャンネルは、我が家が愛寵しているチャンネルで、威信に賭けても、お茶らけた時代劇もどきには出来るはずもなく、筋運び、俳優陣の所作やセリフ回しまで、細部まで作り込んでいて、重厚な作りです。

画面が陰影に富んでいるのは、闇の住人である仕掛人を表しているのだと思います。暗い画面から、皺もシミも余すところなく映される梅安。それは初老の男だと言うより、老成した人に観える。その見方を後押しするように、梅安の過去が挿入されます。先代の内儀を殺す場面など、死神のようにも見える梅安。人を殺めながら、病の人に息吹を与えると言う矛盾。彼は、きっと自分が煉獄に身を置いていると、自覚していたのだと思います。

そしてとにかくカッコ良く、惚れ惚れする程色っぽいんだなぁ。おもんとの事後、お互いしどけない姿でおもんに鍼を打つ梅安。はだけた胸元、大きく開いた襦袢の裾から見える太腿の、何と色っぽい事か。菅野美穂ももろ肌脱いでいたのですが、カメラが見据えているのは、明らかにトヨエツ氏。初老男性から性を感じると、とかく生臭くなるはずですが、それがありません。硬質さと艶めかしさが共存するのは、表裏の稼業で、死を身近に感じる梅安ならばこそ、だと思いました。

何が言いたいかと言えば、とにかくトヨエツが素晴らしいと言う事(笑)。彼の作品は結構観ていますが、今作が私は一番好きです。

天海祐希がとにかく綺麗!こんなにも女の色香を、それも悪女的な色香を振りまく彼女は、初めて観ました。通常はハンサムな、さっぱりした女性を演じる事が多く、感激しました。何で今までこのような役がなかったのかしら?と思いましたが、この人、背が高すぎるのですね。ある元締めとのシーンでは、かなり彼女が高い。こんなに水も滴るいい女なのに、もう50代前半ですよ。女盛りだった時に、この手の役を、もっと演じて欲しかったなぁ。すごく勿体無い。

ストーリーの中で私が注目したのは、男に手籠めにされる女性がたくさん出てくる事。武家の妻であれ、農民の女房であれ、夫がいる女性は、必ず自害するのです。辱めが耐えられなかったのか、貞操を汚され、夫に申し訳なかったのか。多分両方。誰より守られたい、夫の存在が仇となると言う哀しさ。その中で、夫のいない女性の一人は、ある男性の気骨により息を吹き返します。おみのも、その一人。寄る辺ない身の上だった彼女は、男を自分の色香で惑わし、食い散らかす事で、ガシガシのし上がる。

おみのは、男を惑わしながら、男を憎んでいる。自分を通り過ぎた男みんな。お金に困った少女たちに客を取らせるのは、自分の生き方を肯定したかったからではないでしょうか?そこから、彼女の孤独が浮かぶのです。ただの悪女ではない大きな哀しみを背負ったおみのを、天海祐希もクールに艶めかしく好演していました。

愛之助の彦さんは、今回は凄腕の一端を見せるものの、良きバディぶりを描く事が中心でした。トヨエツを立てる演技は好感が持て、続編は彦次郎がメインのようで、期待充分です。

殺しの場面は鮮やかなれど、仕掛人は一瞬に仕留めるので、殺陣は無し。そこで大立ち回りをみせてくれるのが、早乙女太一の浪人です。出演者の平均年齢が高い中、彼のスピーディーな殺陣は見応えがあり、華やかでした。子供の頃から舞台を積んでいる成果ですね。

重厚な空気の中、その空気を緩ますのが、梅安の女中のおせき(高畑淳子)。野次馬的好奇心満タンの俗人ですが、主人の事を心から案じる善人でもあります。「おせきは幸せだねぇ」と言う梅安に、「何が幸せなもんですか。幸せなのは、私の亭主ですよ」と言うおせき。彦次郎とはまた別の意味で、おせきもまた、梅安の心の癒しになっていると思います。高畑淳子は、やり過ぎ一歩手前の演技で好演。流石の腕前だなと、ここも感心しました。

見どころと言えば、全編見どころとも言える作品です。池波正太郎と言えば、江戸時代の料理の蘊蓄が楽しみですが、その再現も見どころの一つ。私は彦次郎のお粥が作りたくなりました。お粥もお米から炊くと、格別の味わいです。時代劇もきちんとした時代考証からかな?丹精込めた時代劇は少なくなったと、お嘆きのご貴兄にも、時代劇には馴染みのない方にも、同じように堪能できる作品です。


ケイケイ |MAILHomePage