ケイケイの映画日記
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2022年11月11日(金) 「窓辺にて」



この作品の主人公、茂巳(稲垣吾郎)のセリフを借りれば、自分の人生には何の関係もないけど、面白くは観た作品。誉めてます(笑)。監督は今泉力哉。

フリーライターの茂巳。妻の紗衣は出版社の編集をしています。紗衣(中村ゆり)は担当している荒川円(佐々木詩音)と不倫中。しかし、その事をしっても怒りが沸かない自分に、茂巳はショックを受けており、どうしたものかと思案中です。

浮気した妻に怒りが沸かない男に稲垣吾郎って、ドンピシャでしょう?そこに興味津々で観に行きました。そんなわけあるかい!と、散々他の登場人物から謗られた茂己ですが、私は何となく理解出来ました。茂己的には妻を愛しています。

他にスポーツ選手の若葉竜也と志田未来夫婦、女子高生作家の玉城ティナと自動車修理工の倉悠貴のカップルが出てきます。若葉竜也も、モデルの穂志もえかと絶賛不倫中。この三組の中で、茂巳夫婦が、圧倒的に生活感がありません。

夫婦の会話は常に自宅のダイニング。取り留めのない会話は澱みなく、適度な相手への思いやり。コミュニケーションは取れています。でも「親しい他人」のようです。そして「もう寝るね」と、必ずどちらかが先に寝室に行く。これはセックスレスを表しているのかと思います。

茂巳はかつて小説家で、紗衣はその編集者でした。小説の題材は、茂巳のかつての恋人。その恋人が今現れたら、「ちゃんと生きているし、結婚だってしたと言ってやる」と言う茂巳。その相手が妻で、不倫していたのなら、きっと怒ったんじゃないかな?紗衣は、それが辛いのです。

思うように小説が書けない円。紗衣が自分に愛情を示す彼を、身体ごと受け入れるのは、単に良い小説を書いて欲しいからだけではなく、自分がそうして欲しいからじゃないかしら?

夫婦の在り方は様々です。茂巳は人生のパートナーとして紗衣を選び、そこには紗衣でなくてはならない、永遠に続く信頼と言う名の、愛情があったと思います。人としての紗衣は愛している。信頼していたはずなのに、裏切られて怒りがない。だからショックなんだね。紗衣とは、自分にとって、なんなのだろうか、と。対する紗衣は、男女としての夫婦を求めたのでしょう。女性として妻として愛されたいと言う想い。私は彼女が理解出来る。何人子供が生まれようが、どんなに年を取ろうが、夫婦は家族でも、親兄弟、子供とは違うと思う。幾つになっても、そこには男女の残り香が必要だと、私は思います。

私は不倫否定派ですが、紗衣の気持ちはとても理解出来ました。この作品、何が不思議かと言えば、不倫が題材なのに、何故か怒りが沸かない(笑)。若葉竜也もクズですが、これも引退間近の葛藤が、不倫に逃避させているのが解かる。妻がどう反応するか恐れているのね。バカだね、あんなにしっかりした奥さんの、どこ観ているんだか。不倫相手が罪悪感を持ち、妻には勝てない事を悟っているので、若いのに偉いねと思ってしまい、あまり嫌悪感がありません。

玉城ティナの演じる留亜が良いです。彼女の文章は、繊細で流れるように美しく、それでいて地に足が着いている。若さ故の頭でっかちな尖ったところは感じません。それは、不遇だった生い立ちを嘆かず、きちんと自分を尊重しているのでしょう。それなのに、あの彼氏(笑)。しかしこの彼氏が良かった。教養もなく学もなさそうで、一見チャラい感じです。しかし軽薄ではなく、人柄に温かみがあります。何より留亜を愛している。愛情薄い半生だったろう留亜。この彼氏を選んだことが、彼女の人生観なのだと思います。 

全体に文学的な印象で、修羅場さえも声を荒げる事なく静々進むのに、全く違和感なし。でも三組の落ち着き方をみれば、監督は不倫を美化しているわけでもなく、私と同じ意見なのかな?と、感じています。 

こころに残った台詞があって、何かを捨てれば何かが手に入る、と言うもの。この逆は、執着を捨てる際に使われる言葉ですが、手に入れるために捨てなければいけないより、捨てちゃったら、思わぬものが手に入った、の方が、ワクワクしませんか?これから此方を選択しようと思います。


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