ケイケイの映画日記
目次過去未来


2022年07月24日(日) 「エルヴィス」




言わずと知れた、プレスリーの伝記映画。プレスリーの事はほとんど知識がなくて、それでも楽しみにしていたのは、監督がバス・ラーマンだった事。ラーマンと言えば、豪華絢爛な演出、楽曲の洪水です。過剰過ぎて、時々猥雑に映る時もあり、プレスリーを描くのに、ドンピシャな監督の気がしました。思惑は当たったみたい。とてもとても良かったです。

勿論プレスリーは知っていますが、私が確かに彼を知ったのは、小学生の頃公開した「エリヴィス・オン・ステージ」がヒットしていて頃。耳馴染みのあるヒット曲は数あれど、小学生の女子には、派手な衣装の小太りのオジサンくらいの認識でした。偉大なアーティストの認識はありましたが、私がその後思春期に聞いたのは、主にハードロックだった事もあり、ほぼ彼の軌跡はスルーしたままで、今回の鑑賞でした。とにかく知らない事だらけでした。

メンフィスの黒人地域に育った事、歌う時の仕草が卑猥、そして黒人の様だと非難され、止めるよう国から圧力をかけられたのにも関わらず、それに抗う気骨があったこと、入隊の経緯、プリシラとの恋と結婚生活、低迷期、そして有名なラスベガスでの公演。薬の影響。そしてマネージャーであるトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)との成功と因縁。借金。とにかく全てがドラマチックです。

私は早逝した事もあり、人気は保ったまま、ずっと順風満帆の人生だと思っていました。こんなに当時の常識に真っ向勝負する、反骨に満ちた人生だったとは。感激しました。

ライブ場面が盛りだくさんで、彼の歌、そして彼に熱狂する女性たちの様子を描く場面の描き方が秀逸。女性の男性へ対する本能だけを切り取ったような、キャーとかワーとかの歓声とはまるで違う、獣じみた様子です。パンツ脱いで投げてるし(笑)。母が息子の人気に不安を感じるのも、さもありなん。

プレスリーを演じるのは、オースティン・バトラー。彼が主演と聞いた時は、えらい小粒なキャストだなと思いましたが、謝りたいです、ごめんなさい。ものすごく良かった!とにかく歌が上手いし、ライブ場面の仕草や踊りも多分完コピなのでしょう。なのでしょうと言うのは、私は解からないから。でも大事なのは、そう感じさせることだと思う。そしてエルヴィスの当時語られなかった陰の部分も、くっきり浮かび上がらせて、やるせなく哀切に満ちた感情にさせます。なんだかんだ言って、ハリウッドは層が厚いのも実感します。

そして悪徳マネージャー、パーカー大佐との関係。これも全然知らなかった。有名な話みたいですね。エルヴィスは確かにパーカー大佐の手腕で爆発的な人気を得ましたが、その後はエルヴィスのためではなく、借金返済など、自分に都合の良い契約に終始し、エルヴィスに取って良き転換となる様な仕事は、悉く断る。バーブラ・ストライサンドの「スター誕生」のオファーも断っている。これは見たなかったなぁ。

「自分は音楽の事は何も知らない」と言うパーカー大佐が、歌手の売り出しに大成功を収めるショービズの世界の不思議。何度も彼と反目しながら、それでもエルヴィスがパーカー大佐をクビにしなかったのは、彼に恩義を感じていたからでしょうか。

パーカー大佐を演じるハンクスが、胡散臭くて悪党なのに、絶妙に愛嬌があって、「仁義なき戦い」の金子信雄かと思いました(笑)。エルヴィスが彼をクビにしなかったのも、力業で納得させられました。

エルヴィスは薬の過剰摂取で亡くなったとされており、その様子も丹念に描いています。生前、酒も煙草も嗜まなかった人が、合法の医師が処方する薬で依存症になるなんて。華やかなラスベガス公演の裏に、こんな悲惨な事情がある事もしりませんでした。私は良くあるロックスターと違法な薬の因果関係で亡くなったと思っていたので、知れて良かったです。

時折挿入される本物の映像。ラストのバラードを歌う姿に、無性に涙が出て仕方なかったです。私は優れた伝記映画とは、例えその人のマイナス部分を描いてても、魅力を感じる内容だと思っています。ダニー・ボイルの「スティーブ・ジョブス」は、全編ジョブスの嫌な野郎感満載なのに、人を惹きつける魅力に溢れた人物像に描かれていました。「エルヴィス」も誰もが知る華やかな彼と同等に、誠実で哀歓に満ちた人間エルヴィスが描かれていたと思います。

監修に湯川れい子氏の名前が。氏は有名なエルヴィス・フリークです。もう80代だと思いますが、お元気で嬉しいです。少々美化されてるかも?ですが、氏に免じて忘れましょう。楽しかった、感動した、と言う感情の方が大事だもん。


ケイケイ |MAILHomePage