ケイケイの映画日記
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2019年06月07日(金) 「愛がなんだ」




ただいま小屋変えしたりで、ロングラン上映中で、やっと見て来ました。ラストシーンは、ほんわか演出していますが、「アデルの恋の物語」の、痛烈なラストを思い出してしまった。五人の男女の恋愛模様が描かれ、なかなか面白かったです。監督は今泉力哉。

28歳のOLテルコ(岸井ゆきの)。大好きなマモル(成田凌)とは、深い関係にあるのに恋人同士ではありません。親友の葉子(深川麻衣)は、テルコとは逆バージョン。年下の中原(若葉竜也)に尽くしぬいて貰っているのに、邪険に扱っています。あやふやな関係が続いていたテルコとマモルですが、マモルが「自分の好きな人」と紹介する、すみれ(江口のり子)が表れてから、それぞれの微妙な関係性に変化が訪れます。

観る前はメンヘラかと予想していたテルコですが、前半は頷きっぱなし。今の私じゃ、バカかお前はと、テルコを叱咤したい気分ですが、これ今だからね。自分の若いときを思いだしゃ、こんなもんですよ。人生とは私の大好きな彼なくば、砂漠と一緒。私も採用して貰ったアルバイト初日がデートと重なり、アルバイトを蹴った経験があるもん(笑)。

毎日電話し、彼の家にお泊りし、デートして。そりゃ好きだなんだと言われなくても、彼氏だと思いますよね?でも待って。テルコは最初から「マモチャン」と呼ぶけど、守はずっと「山田さん」です。この温度差。それに一抹の不安も持たず、33歳以降のマモちゃんの人生には、自分も一緒だと確信するなよ。私は象の飼育員なんて、守が突飛な事を言うから、私の年も考えてくれと、絶望して泣いているのかと思ってしまった(笑)。

なので靴下の一件から、テルコと距離を取るマモルの気持ちは理解出来ました。それでも、クズだなこいつと思っていたマモルですが、すみれ登場で、見方が変わります。大雑把でガサツなすみれに、甲斐甲斐しく世話しようとする様子に、あんまり女と付き合った事ないんだなぁと感じました。すみれはそんなの、喜ばない女です。

すみれはガサツでも、雑な女じゃなく、人の感情はちゃんと汲み取る人です。それが中原には響きます。「寂しい時、誰かと話したくなって、誰もいなかったら、その時僕の事を思い出してくれれば、それでいいんです」の言葉には、何と言う無償の愛と、感動してしまった。それをテルコのバカは「中原君、気持ち悪いよ」って、何だよ。この辺、似た様な二人ですが、決定的に恋愛感が違うのが解る。そして後半になると、各々登場人物が別の顔を見せ始めます。

私がこの作品で一番好きなのは、中原です。彼が葉子と距離を置こうとしたのは、すみれが彼に対しての葉子の態度を詰ったから。自分は良くても、他人から好きな人はそう見える事を、彼は初めて知ったのですね。自分は葉子の傍らにいるだけで満足だけど、一方通行なこの不毛な関係は、葉子の人としての成長に邪魔になると思ったのでしょう。決してテルコの言う「恋人同士になるのが無理だから、諦めましたと言え!」では、ないのです。こんなに恋しい相手に対して、相手を中心に想い思考する中原。これが無償の愛でなくって、何?「幸せになるたいっすねー」と、笑いながら涙ぐむ中原に、思い切り貰い泣きしてしまった。それなのに、「うるせー、ばーか!」って(怒)。バカはお前だよ、テルコ!

若葉竜也がね、本当に上手い!みんな全く別の役柄なのに、何を演じても感動するくらい上手い!映画もヒットしたし、年末の助演賞は確実でしょう。岸井ゆきのは、超キュートに見えたりブスに見えたり、変幻自在。猫かぶりの守の前と、毒舌家の他の人の前での姿も、微妙に演技を変えて役柄をとても理解していました。彼女のお陰で、テルコがとても身近に感じました。

すみれと同じ事を、守に忠告する葉子。これが意外な展開でね。こんなに素敵なのに、途中で自己肯定感が著しく低い事を露にした守ですが、ここでも不器用感満載。言われて反省するなんて、結構いい奴じゃん。ああそれなのに、アホのテルコはまた・・・。ここまで来ると、バカが愛おしくなります。

好きになるのに理由はないでしょ?と言う会話が、最初の方で出てきますが、それは私も賛成です。好きになった相手が、タイプなんだよ。友達でいいから、関係続行を望んだテルコは、愛がなんだ、恋がなんだと言いながら、満身創痍で守を愛しているんだな思うと、やっぱり涙が出てくるのです。

満身創痍を抜けて、豪胆になると、「私はまだ」以下の台詞の気持ちになるのかと、すごく納得してしまいました。アデルのように気が狂ったわけじゃなし、豪胆を抜けると、きっと達観するんだよ。そうしたら、中原の気持ちがわかると思うのね。その後は、中原と葉子のように成れたらいいね、テルちゃん。


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