ケイケイの映画日記
目次過去未来


2019年05月28日(火) 「居眠り磐音」



桃李、頑張ってる!心境著しい松坂桃李が主演する時代劇なので、期待値上げて観て来ました。昨今流のライトな時代劇で、重厚さには欠けるかも知れませんが、その時代を生きる人々の情感や哀歓に溢れ、立会いや殺陣の場面も豊富にあり、見応えもある出来の良い作品だったと思います。監督は本木克弘。

豊後関前藩で将来を嘱望される藩士だった坂崎磐音(松坂桃李)。心ならずも許婚の奈緒(芳根京子)の兄であり親友の琴平(柄本祐)を、藩の命令で斬ってしまい、失意の彼は脱藩し、江戸で長屋暮らしを始めます。気のいい大家(中村梅雀)の紹介で、うなぎ屋で働くようなった磐音ですが、ある事から今津屋吉衛門(谷原章介)が営む大店の両替商の用心棒となります。磐音が雇われた理由の奥には、田沼意次(西村まさ彦)の改革を妨害しようとする動きがあったのです。

NHKで金曜日の八時に、長いこと時代劇のドラマを放送していましたが、名作がいっぱいでした。それを彷彿させるのです。出だしの悲劇は、大急ぎで描いていましたが、各々キャラや家族の様子など、背景の説明が上手かったので、私は異議なしです。あれくらいで妻をお手打ちとは、と思われる向きもあるでしょうが、若い人の離れ暮らす三年は長い。真面目一徹で融通の効かない慎之介(杉野遥亮)の性格は、繰り返し出てくるので、妻への愛が憎さ百倍になったのも、私は納得出来ました。それにしても、武士って面子の生き物だと痛感します。

江戸へ出てきてからの磐音の日常の描写が上手い。おっとり育ちの良さが溢れ、剣の腕も立つ磐音は、子供相手にも「痛み入る」「かたじけない」と、礼節を尽くし、次第に周囲の人々の信頼と親愛を得ます。

両替を元に、黒幕を暴き鼻を明かす謎解きのような展開も、丁度良いスピードで流れ、一番良いのは解り易い事。私は原作は未読ですが、ここはこの筋運びのはずとの予想が、全て当たる展開は、斬新さはありませんが、言い換えれば安心して見られます。要所要所に立会いもあり、名のある俳優がたくさん特別出演のように出てくるので、華やぎもあり退屈しません。

そして何たって桃李君ですよ!色んな作品で結果を出して、出世街道爆走中の彼ですが、至ってオーソドックな二枚だと思います。昨今は個性が持て囃されて、彼のように容姿端麗で爽やかな好青年風は、むしろ希少価値。持ち前の品の良さで、男娼やろうが、腹に一物ある刑事やろうが、全て好感度アップに繋げているのが、本当に偉い!

私が思わず落涙したのは、離れ離れになった許婚の奈緒が寄こした手紙の、「奈緒はいつまでも磐音様の妻にございます」の一文に、祝言前だと「奈緒殿」と呼んでいた磐音が、彼女を必死で追いかけ「奈緒ー!」と絶叫したシーン。恋しい女が、祝言を挙げなくても、離れて暮らしても、一度も抱かれなくても、自分の妻だと言ってくれたのです。磐音も、「夫」になったのでしょう。許婚の兄を斬った自分は、奈緒には二度と会えないと思う磐音。磐音と共に、煉獄に身を置く覚悟だった奈緒。思い合う男女がすれ違うのは、言葉足らずと思い込みだよなぁと、つくづく思うのです。これは現代も一緒ですね

まだまだ謎は残り、今津屋が「あなたがした事の背後には裏がある」との助言は、観客も承知。作中では奈緒に横恋慕した家老(奥田瑛二)の策略とのフェイントが出てきますが、それくらいであんな手の込んだ策は練らないわな。若手エース三人を失うのは、藩として痛手が多すぎだもの。裏にはもっと大きな陰謀があるはず。密かに磐音に恋心を抱く大家の娘おこん(木村文乃)との間も気になるし、評価も高いようですので、きっと続編も作ってくれる事だと思います。端正な作品です。


ケイケイ |MAILHomePage