ケイケイの映画日記
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2018年12月28日(金) 「アリー/ スター誕生」




何度もハリウッドでリメイクされている名作。でも実は、有名な作品なのでストーリーは知っていますが、私はどれも未見。今回のはとても良かったですが、他の作品と比較できないのがすごく残念。監督は主演も勤めるブラッドリー・クーパー。

ウェイトレスのアリー(レディ・ガガ)。歌手を夢見る彼女ですが、顔にコンプレックスがあり、今はゲイのショーパブで仕事を終えた後ライブしています。そこへ有名カントリーシンガーのジャック(ブラッドリー・クーパー)が、偶然に店を訪れます。アリーに魅了されたジャックは、彼女の後ろ盾となり、二人は一緒にライブに立ちます。世間の注目を浴び始めたアリーに、ソロシンガーとしての契約の話しが、持ち込まれます。

本当にびっくりしたのが、ガガ。破天荒な行動、奇抜すぎるファッションのガガ様は何処、とにかく控えめで初々しく、純朴でさえある。これはすごいインパクトでした。初めて「スター誕生」が作られたのが、1930年代。以来時代が変わっても、ヒロインのキャラはほぼ同じで、自分の事よりも愛する夫を支えたい、今では絶滅種の古風な価値観の女性です。

陳腐な演出や演技ならば、ここは感情移入が難しくなる今、その心栄えが実に美しい。他の誰でもない、時代の先端を行くガガをキャスティングした意味は、この夫婦の有り方に、普遍性を感じて、共感して貰いたかったからだと思いました。実際結婚生活36年を過ぎた私なんか、アリーの麗しき妻心に自分を省みて、反省しきりだったんだよ(実話)。

ブラッドリーは歌がすごく上手くて、これまたびっくり。そしてジャックはアルコール依存なのですが、初登場時から首尾一貫、薄汚さが印象的でした。素面に近い時でも、このそこはかとない汚さは、依存症の人の特徴だと思います。普段は精悍なブラッドリーが、これを醸し出せるとは凄いなと感心しました。

ガガも本作のため、たくさんの歌を作ったそうですが、ミュージカルかと思うほど、様々な歌が歌われ、どれもこれも心に染み入ります。初めて二人が共演したライブ場面では、歌だけで感動して号泣。歌が人に贈る尊さや励ましを、改めて実感させて貰いました。

人気が沸騰する妻に対して、人気は凋落し難聴が進む自分に、落ち込むジャック。恵まれぬ生い立ちで、家庭の愛情を知らないジャックが、初めて味わう暖かな居場所を与えてくれたアリー。一瞬の嫉妬はあれど、彼のアルコールが増えた原因は、アリーに捨てられるかも?と言う恐怖だったと感じました。

さなぎだったのを見つけて、孵化したのはジャック。それを飛び立たせ、美しい蝶として空に舞わせたのは、マネージャーのレズ(ラフィ・ガヴロン)。力強いけど、素朴なシンガーだったアリーは、レズの指導で一流のエンタティナーへと変貌していきます。でもそれはあくまで歌手として。アリー自身は何も変わらないのに、自分から堕ちていくジャックが、とても哀しい。

ブラッドリーの演出は、薄い化粧、肉感的だけどだけど、スタイル的にはそれ程良くないガガの、ありのままを映しています。アリーがどれほどの努力で、人気を獲得していったのか、そこも感じました。演ずるガガとアリーの共通点でもあるのかも。

他に良かったのは、肉親の情の深さを見せてくれた、アリーの父親とジャックの兄の演出です。アリーのお父さん、シナトラの話し、自分の事だったんですね。ジャックの兄も、父親から息子ほど年の離れた腹違いの弟を連れてこられた時、複雑な感情があったでしょう。「俺が憧れていたのは、兄貴だ」と、ジャックに言われた時の表情は、忘れられない。精一杯手のかかる弟の面倒を見尽くした筈なのに、どうして手放したのか?と言う、悔恨の滲む表情でした。

人生の、そして夫婦の哀歓を充分に感じられ、哀しい結末なのに、前を向いて歩く力強さを貰える作品です。ブラッドリーとガガ、オスカーの作品や監督、主演賞にノミネートして欲しいなぁ。あっ、音楽は絶対!付けたしですが、鑑賞後映画館のロビーで、中年男性が「依存症は病気じゃないからね」と、したり顔で、連れの女性に薀蓄を傾けていましたが、アルコール依存症は立派な病気です。疑わしきは、必ず診療機関へGO!この記述が目に留まって、正確に認識して貰えれば、嬉しいです。


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