ケイケイの映画日記
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2017年02月22日(水) 「愚行録」




胸クソ悪い映画です。でも面白いから、始末が悪い(笑)。一連の湊かなえ作品に通じる、「イヤミス」的な作品。そしてドス暗い。面白いけど誰にも感情移入出来ない中、ラストに腑に落ちるプロットもあって、最後まで楽しめました。監督はこれがデビュー作の石川慶。

雑誌記者の田中武志(妻夫木聡)。一年前起こった田向家惨殺事件のを、もう一度調べなおしています。事件は夫・浩樹(小出恵介)と妻・友季恵(松本若菜)と一人娘が殺されています。エリート社員の夫、美しい妻の高学歴夫妻と可愛い娘。誰もが羨望するような家庭を築いていた彼ら。しかし、調べ直していくうちに、世間が知らない彼らの裏の顔が見えてきます。田中は同時に、自分の娘の虐待で逮捕された妹の光子(満島ひかり)がおり、田中は面会に行きます。

友季恵の出身校が、慶応みたいと思っていたら、原作はもろ実名で慶応大学なんだとか。よく大学や出身者から抗議が来なかったなと思うほど、大学内での、内部出身者と外部出身者、出自や容姿を元にした、ヒエラルキーが描かれます。外部出身者が内部出身者に認めてられて仲間入りが「許される」と、昇格とか言われちゃうんだよ?原作者(貫井徳郎)は一環として、出身者から取材したとしているらしいですが、マジですか?来年から受験者が減るレベル。

田中や光子、田向夫妻は、30代前半から半ばくらいか?浩樹にしても、自己チューで自分勝手な理論の持ち主で、自分の利益になる女性に手を出しては、使い捨て。友人もシャーシャーと二人で弄んだ女性の話を自慢げに田中にして、その直後あんな良い奴が何故殺されなければならないのか?と涙ぐむ。バカなの?お前も死ねよ。ちなみに、二人の出身校は原作では早稲田と実名らしい(笑)。もうこなると、原作者は確信を持って、イヤミス的手法を使って、華やかな高学歴者の傲慢さを描いているのが、わかります。

しかし女子たちもなぁ。大学から慶応に受かるほどの頭があって、美貌があって、それなのに男捕まえるしか、頭使わないの?浩樹たちに弄ばれた会社のOLも、いい会社に勤めているんだから、エリート社員を捕獲しなきゃと必死で、やっぱりバカみたい。弄ばれても、あんまり同情が沸かない。

彼女たちの学生時代は、今から12〜13前でしょうか?今より女性は社会的には辛い立場であったでしょうが、ネットや雑誌で読む限り、今もあまり変わらないのですね。でもね、あんたたち間違えているよ。

家柄や親の財力や会社と結婚するんじゃないのよ。あくまでも男性個人と結婚するの。恋愛と結婚が違うと言われるのはね、好きでもない相手と条件だけで結婚するのではなく、この人となら、誠実で暖かい家庭が築けるか?と言う意味です。好きだけど、結婚には向かないなと思う男性、いるでしょう?事実、浩樹の元カノ(市川由衣)の最後の一言は、死ぬまで浩樹と関係が続いていたと言う事です。

冒頭のバスのシーンから、一癖ある男だと印象づけた田中。彼が何故まだ田向家に拘るのかが、明かされてからの展開がお見事。数々の伏線が全部が繋がっていく過程は、ミステリーとして見応えがあります。

浩樹と光子は、両親ともに虐待されて育ちました。育児放棄の母親、DVで娘に性的暴行を働く父親。守ってやらない母。その母親の現在の暮らしが描かれます。何と再婚して、一人息子を得ての平穏な暮らし。「あの子達で失敗したから、今度こそ」。反省して学習したんですか?ハンマーでぶん殴ってやりたくなりました。再婚なんかせず、反省したなら、陰からでもいいから、息子と娘を見守ってやれよ。子が自分を尊重できず、虐待事件を起こしたのは、明らかに両親のせいです。

私も厄介な両親の元、しんどい子供時代でしたが、私の親は虐待なんかしなかった。愛情表現が間違っていただけなんだと、改めて感じました。救われるべきは、虐待された子供です。武志と光子が痛々しい。家柄や学歴を鼻にかける人々の内側を、せせら笑うように面白おかしく見せて、実は子供には選べない自分の出自の嘆きや悲しみを描き、虐待された子供の悲惨な末路を見せて、世間に問う作品じゃないでしょうか?「愚行録」の意味をかみ締めたいです。

女性の出演者は、現在みんな三十路超えですが、みんなが回想場面で、ちゃんと女子大生に見えたのはびっくり!さすがは女優さんです。数々の嫌な女性が出てきますが、私は臼田あさ美が演じた宮村が、一番マシでした。でも独身なんだよねー。あぁ。妻夫木聡は、役者として絶好調なんですね。何でも来いで今回も上手い。対して小出恵介は、爽やか過ぎたかな?

ラスト、ファーストシーンとは対照的な、田中の様子が描かれますが、あれは光明ではないな。ほんの詫びでしょうか?石川監督の次回作も、是非観たいです。


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