ケイケイの映画日記
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2015年11月04日(水) 「アデライン 100年目の恋」




画像はヒロインのアデラインを演じるブレイク・ライヴリー。彼女のこの美しく憂いのある表情に魅かれて、観てきました。プロットのトンデモさを、ヒロインの心情を情感豊かに描く事で、打ち消しています。ハーレークィーンロマンス風の作風ながら、アンチエイジングに血眼になっているかつての女子たちに、一考促してもいます。監督はリー・トロンド・クリーガー。

1908年生まれのアデライン・ボウマン(ブレイク・ライヴリー)。21歳で結婚した彼女は一女に恵まれ幸せな日々を送っていましたが、結婚8年目に夫が他界。その半年後、彼女も交通事故に合います。幸いにも一命は取り留めましたが、不思議な事に、それ以降彼女の肉体は老化せず、そのままでした。容姿の変わらなさに不審を抱くFBIや警察。一人娘のフレミングと自分を守るため、彼女は10年ごとに名前と居場所を変え、息をひそめるように生きていました。現在の名前はジェニー。そんなアデラインの心を慰めるのは、今は老いた娘のフレミング(エレン・バースティン)。アデラインを見初め、猛烈なアプローチをしてくるエリス(ミキール・ハースマン)に、尻込みしていたアデラインですが、フレミングの励ましもあり、求愛を受けます。エリスの両親の結婚40周年のパーティーに呼ばれたアデラインですが、そこでエリスの父ウィリアム(ハリソン・フォード)から、「アデライン・・・」と、声をかけられます。

この作品の成功は、一にも二にも、ブレイクの魅力に尽きます。全編ほぼ出ずっぱりながら、ずっと観ていたいくらい、ため息が出るほど美しい。素顔のブレイクは、ファッションリーダーとしても有名ですが、クラシカルな装いから、中盤のヒッピー風、現代の仕事とプライベートの落差のある、メリハリのある装い全て、ノーブルでエレガントに着こなしています。それだけではなく、自分の背景のせいで、愛に臆病になる様子や、自分より老いてしまった娘への愛情を示す母性愛など、情感豊かに演じて、同性の共感を呼びます。

ウィリアムは、かつてアデラインと結婚まで考えた恋人同士でした。それが結婚40周年のパーティーで再会するのですから、神様は意地悪ね。アデラインは母だと偽る彼女に、思い出話を語り続けるウィリアム。当然妻は機嫌が悪くなる。「二番目では、嫌なの」と素直に言える妻に、私は好感を持ちました。嫉妬はプライドが許すけど、二番目は許さないのですね。女は年を取ると、変な見栄を張り、心ならずも逆を行く人が多いですが、妻のこの可愛さは見習いたいと思います。

相手を思うが故のすれ違いや、守る男性守られたい女性の心情が描かれ、古典的な愛情の世界観が繰り広げられますが、品が良いので心地よく観られます。アデラインは本当は相当なお婆さんなので、エリスの猛烈な求愛にも、ニヤリとするような、当意即妙の返しでかわします。女の年季を感じる受け答えに、そうよね、私も今のまま30年前の容姿に戻ったら、あの男この男落とせるんだが・・・と思った人は、私だけはないはず(笑)。

若く美しいままの母より、娘の自分が老いている事を、淡々と受け入れているようなフレミング。そこに行くまで、相当な葛藤があったでしょうね。しかし「ママともっと一緒にいたかったわ」の言葉の素直な響き。生涯孤独を覚悟している母に、「自分のために出来ないなら、私のためにパートナーを見つけて」と切々と訴える様子など、この不思議な空間に、母を愛する娘の気持ちが溢れています。この状況に自暴自棄にならず、アデラインが身を律して生きてきたのは、この娘がいればこそと、感じました。

自分がアデラインになったように、切々と身を焦がしながら観て下さい。ラスト、自ら見つけたものに、喜び涙する彼女。巷では如何に若さを保つかを競うように、アンチエイジングを歌い文句の商品で溢れていますが、私はずっと懐疑的でした。若いままでいるより、私は年齢相応に美しく老いたい。アデラインの憂鬱を観ながら、それは正しかったんだと感じています。「愛する人と一緒に老いたいの」とは、アデラインの言葉。人生で一番愛した人と再会したウィリアムですが、妻に捧げる感謝の言葉に嘘はないはず。だって彼の妻は、ウィリアムが人生で一番愛した妻なんですもの。




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