ケイケイの映画日記
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2015年08月17日(月) 「ボヴァリー夫人とパン屋」




あの「ボヴァリー夫人」をモチーフにした、上品な艶笑作。私の大好きなジェマ・アータートンを愛でる作品です。監督はアンヌ・フォンテーヌ。

ノルマンディーの片田舎でパン屋を営むマルタン(ファブリス・ルキーニ)。単調な生活に飽き飽きしている彼の、唯一の趣味は読書。愛読書は、フローベールの「ボヴァリー夫人」。退屈した日々を送る彼の隣家に、イギリスから新婚夫婦が越してくる。何と名前はボヴァリー夫妻!マルタンは魅惑的な若妻のジェマ(ジェマ・アータートン)に、魅かれて行きます。

艶やかで健康的なエロティシズムを振りまきながら、どこかとぼけた味わいを醸し出すのがチャーミングな、ジェマ・アータートン。今回はそこに、触れなば落ちん的憂いが加わって、殿方からすれば、堪らない魅力。ファッションもパンツスタイルはほとんどなく、ちょっとクラシックなワンピーススタイルがとても似合っていて、マルタンが「10年ぶりに性欲が湧いた」と言うのも納得の無敵さです。

まんまと彼女の魅力に囚われたマルタン。さながらストーカーチックな行動ですが、ルキーニのお茶目で他愛ない様子が楽しく、憎めません。皮肉を言う現実家の妻もいい感じ。

私はフランス在住の女性のブログを愛読しているのですが、その方の御主人の故郷がシャンパーニュ地方の片田舎で、仕事して酒盛りして(シャンパーニュだものね)、狩猟するしか楽しみはない感じのところだとか。都会に住むと、田舎の自然に抱かれて癒されるものですが、毎日だと、そこらじゅうに「退屈」の二文字が浮かぶのでしょう。それを体現しているのが、マルタン。

ふってわいたように現れた異国の美女ジェマ・ボヴァリー夫人と、巻き毛も美しい、少女マンガから飛び出てきたようなエルヴェ(ニールス・シュナイダー)がどうなるか?が、彼の一番の関心事になっていきます。

無敵のジェマの艶やかさを楽しみつつ、「ボヴァリー夫人」の足跡を辿る様な展開を楽しんでいたら、お話は急転直下、一気に悲劇に。もやもやしたものが残る悲しみの中、マルタンの息子が発した「アンナ・カレーニナ」の言葉に、場内大爆笑。もちろん、私も大笑い。この息子、親が言う程バカじゃないわね。ちゃんとお父さん(マルタン)の事、お見通しだったんですから。

ボヴァリー夫人からアンナ・カレーニナに鞍替えしたマルタンの、生気を取り戻したような様子が、また可笑しい。監督が女性なので、悲劇のはずが、男性をおちょくっているような味付けも楽しい小品です。家で観るなら、パンとチーズとワインもお忘れなく。


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